マセラティ ボーラ(MASERATI BORA:1978〜1981)

リトラクタブルヘッドランプをポップアップすると、可愛らしくなってしまうのは当時の定番。エンブレムとグリルは精悍だ。
マセラティが初めて製作した市販ミッドシップカーが「ボーラ」だ。車名のボーラとはマセラティ伝統の「風」シリーズのひとつで、アルプス山脈からアドリア海へと吹きおろす冷たい地方風に由来するという。
ボーラはランボルギーニのミウラやカウンタックが登場し、一躍注目度が高まっていったスーパーカーの市場に参入したマセラティの切り札的なモデルだった。発表は1971年のジュネーブ モーターショーだったが、1960年代末期から当時のマセラティの親会社であったシトロエンの提案で、プロトタイプを製作していた。
その設計は、さすが実績のある一流スポーツカー メーカーだけあり、時流に即した新しい方式で手堅くまとめていた。基本はモノコックにサブフレームを組み合わせ、その上にエンジン、駆動系などを搭載する。サスペンションは前後ダブルウイッシュボーンとした。エンジン上方はカーペットで覆われた上、キャビンとガラスで隔たれ、ミッドシップカーとしては宿命ともいえる騒音が低く抑えられていた。
そのエレガントなスタイリングは、イタルデザインを立ち上げて間もないジョルジェット・ジウジアーロが担当した。当時は新進気鋭だった彼がそれまでに手がけた試作車や市販車とは異なり、ボーラには余裕の気品のようなものも感じられ、大人のスーパーカーと言えた。もちろんスーパーカーならではの、地を這うようなファストバックボディのシルエットだったが、破綻のないバランスの取れたプロポーションも見どころだった。

縦置きの総アルミ製4.7LのV8 DOHCエンジン。圧縮比は8.5とし、ウエーバー42DCNF/14を4基で310psを発生した。
仮想敵は、ランボルギーニ ミウラ。車体はライバルよりやや大きく重く、ホイールベースも長めの2600mmだったが、その分乗員スペースは余裕があり、フロントには大きめの荷室も確保されていた。さらに、マセラティらしい落ち着いたハンドリングを実現した。
スーパーカーの公式に則り、モノコック シャシのリアミッドにV8 DOHCエンジンを縦置きに搭載。エンジンは中回転域のトルク特性を重視した設定のフレキシブルな4.7L V8を搭載。これは同社のギブリと同一だ。あえてピークパワーを狙わなかったのも老舗マセラティらしい見識だった。それでも総アルミ製のV8 DOHCはウエーバー製のツインチョークキャブレターを4基装着して最高出力は310psを発生。最高速度は約260km/hを実測しており、スーパーカーの名に恥じない高性能ぶりを発揮した。
1973年にはアメリカの排出ガス規制に対応するため、北米仕様のエンジンを4.9Lに排気量アップしたが、最高出力は300psにダウンしている。そのため、1975年のマイナーチェンジでは排気量はそのままに最高出力は320psにアップされた。
ボーラは累計で530台が生産され、1978年に生産を終了した。スタイルも性能も含めて、まぎれもない第1次スーパーカーブームの主役として記憶されるべき1台だ。

向かって左が8000rpmスケールの回転計、右が300km/hスケールの速度計。その間に油圧計を配している。
マセラティ ボーラ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4335×1768×1134mm
●ホイールベース:2600mm
●車両重量:1400kg
●エンジン種類:90度V8 DOHC
●総排気量:4719cc
●最高出力:310ps/6000rpm
●最大トルク:47.0kgm/4200rpm
●燃料・タンク容量:有鉛ハイオク・90L
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:縦置きミッドシップRWD
●タイヤサイズ:前205/70VR15、後215/70VR15