ランチア ストラトス(LANCIA STRATOS:1974)
「パーパス ビルト カー」と呼ばれるストラトスは、ラリーに勝つことだけを目的(パーパス)に企画されたクルマだ。少なくとも当時のラリーでは、専用マシンを作るなどありえないことで、通常は市販車を改造するのが常識だった。

全長は3710mmとコンパクトで、ホイールベースは2180mmという超ショートな設計。ラリーでの旋回性能を考えたゆえの結論だ。
この企画の仕掛け人のひとりが、ランチアのラリーチームのボスであったチェザーレ・フィオリオで、後にフェラーリF1チームの監督にもなるほどの実力者だった。常識にとらわれない「俺流」を押し通したことで、ラリー必勝マシンが、ついに実現することになった。
カロッツェリアのベルトーネもこの企画に関与していた。当時のベルトーネは斬新なデザインのミッドシップカーのショーカーをランチア ベースで製作し、新しい市販モデルの生産化を提案した。その提案が、ラリー用ベース車という形で、ランチアのニーズと合致。ランチアが、ドライバーをはじめラリーの現場スタッフに理想のラリーカーを詳細にリサーチしてコンセプトを定め、ベルトーネとランチアのエンジニアのアドバイスを受けて、実際の設計と生産を請け負った。
デザインを行ったのは、あのカウンタックなどを手がけたマルチェロ・ガンディーニだ。ゼロから開発するだけあって、まさしくラリー専用のプロトタイプ レーシングカーのような基本設計とし、センター部分がモノコック、その後方に頑強なサブフレームを組んでエンジンを搭載した。

必要不可欠な装備だけを備えたコクピット。写真では分かりにくいが、ドアにはヘルメットが入る大きさのポケットがある。
キャビンがモノコックなのは、乗員スペースの安全を十分に確保し、騒音にも配慮したためと言われている。また、ヘルメットの置き場をドアポケットに設けるなど、疲労の激しいラリーでの乗員への配慮も各所に盛り込まれた。重量物を車体中央に集めたミッドシップである上、全幅が1750mmもありながらホイールベースはわずか2180mmと短いのは、まさに設計の狙いどおりなのだが、アマチュア ドライバーには手に余るほどクイックなハンドリングだった。
エンジンは当初ランチアの4気筒を積む予定だったが、途中でフィオリオの考えが代わり、ディーノ 246GTの2418cc V6 DOHC(190ps/23.0kgm)をもらい受けることに成功した。ちなみにラリーバージョンのエンジンは、280ps/26.0kgmを発生した。しかし、その交渉が難航して市販モデルの生産が遅れてしまい、500台ほど生産したものの販売は不振だった。
だが、ラリーでは見事に世界タイトルを1974年から3年連続で獲得したことで、目的は達成したといって良いだろう。またスーパーカーとしても、日本では「サーキットの狼」でグループ5レース仕様を主人公が乗ったこともあり、カウンタックに並ぶほどの人気を誇った。

エンジンはディーノ246GTに搭載された2.4LのV6 DOHC。ラリー仕様では280ps/26.0kgmを発生した。
ランチア ストラトス 主要諸元
●全長×全幅×全高:3710×1750×1110mm
●ホイールベース:2180mm
●車両重量:888kg
●エンジン種類:60度V6 DOHC
●総排気量:2418cc
●最高出力:190ps/7000rpm
●最大トルク:23.0kgm/4000rpm
●燃料・タンク容量:有鉛ハイオク・80L
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:横置きミッドシップRWD
●タイヤサイズ:205/70VR14