速さの裏にある空力の哲学とは?
F1といえば言わずと知れた世界最高峰のフォーミュラカーシリーズだ。F1マシンは極端なまでに低い全高、幅広い車幅、複雑なフロントウイングやサイドポッド、そして巨大なリアウイングを持っている。この形状はすべて空力性能のために設計されたものだ。
たとえばF1のフロントウイングには、細かく分かれた4~5層のエレメントがあり、それぞれが異なる角度で空気を切り分けている。これは、ただ前からくる空気を受け流すだけでなく、「タイヤに当たる空気の流れを整える」「車体の下に効率よく空気を取り込む」など、精密に計算された空気のルートを作っているのだ。

2025年シーズンのマシンでいえば、レッドブルのRB21はRB20の空力デザインを踏襲。サイドポッドの上部がえぐれるように絞られ、下部から効率よく空気を吸い込む設計となっている。
さらに、サイドポッドやバージボードは、空気の流れを車体の下へ誘導し、床下のディフューザー(車体後方の広がる空間)で加速させて地面に吸い付くようなダウンフォースを生み出す。
現在のF1は、2022年のレギュレーション変更によってグラウンドエフェクトが復活し、車体の下側でダウンフォースを生むことが主流になっている。
ではGTカーはどうか。GTは「グランドツーリング」の略で、基本的には市販車をベースにしたレースカテゴリーだ。たとえばSUPER GTのGT500クラスやGT3車両を使用するGT World Challengeでは、ベースとなる車がトヨタ・スープラや日産・GT-R、ホンダ・NSXといった市販車であることが大前提になっている。つまり、F1のように空力をゼロからデザインする自由はなく、「市販車の形をなるべく残したまま空力を整える」というアプローチになる。

SUPER GTのGT500クラスはGTカーの中で最も強力な空力性能を誇る。
この制約の中でも、GTカーのエアロは進化を続けている。GT500では、前方に伸びる大型のカーボン製スプリッター、ボンネットの通気スリット、サイドダクト、リアディフューザーなどを装着。F1ほど複雑ではないが、明確に空力性能を狙った形状になっている。特にGTでは、車高がF1より高いため、路面との隙間からの乱流が生じやすく、それをいかに制御するかがポイントとなる。