専用チューニングでベース車両よりも20mmローダウン
思えばこのモデルの鮮烈な走りをスペイン領マヨルカ島で堪能してから、早や8カ月ほど。ポルシェが手がけたスポーツカーらしく、そもそもライバル各車よりもすでにずっと軽いボディをさらに徹底して軽量化。そこに、ベースモデルであるSグレード用ユニットにリファインを加えたよりパワフルな心臓を搭載、というボクスタースパイダー同様の手法で仕上げられたのがこの1台というわけだ。
日本で再会なったケイマンRが、すでに見慣れたこれまでのケイマンシリーズよりも一見してコンパクトに感じられた理由はどうやら、専用チューニングが施されたサスペンションの採用で、ベース車両よりも20mm低く身構えたその姿勢にあるようだ。ヘッドライトフレームやドアミラーがブラック化され、やはりブラック塗色の固定式ウイングスポイラーやボディサイド下の専用デカールを採用するそのエクステリアは相当に派手だ。
かくも低く佇んだボディにヒップポイントがより低くなるバケットシートを採用するゆえ、乗降性がベース車両に比べてある程度ダウンをするのは避けられない。一方でそんなこのシートがハードな走行でも際立つサポート性を提供してくれるのは、マヨルカ島でのサーキット走行ですでに確認済みだ。ちなみに、贅沢なカーボンファイバー製骨格を持つこのシートは「ケイマンS比でマイナス55kg」という減量分の内の12kgを受け持ってもいる。もし乗降性を許されざる問題と捉えるならば、そこでは「ふつうのケイマン」を選択すれば良いだけのハナシだ。

テスト車のボディカラーはケイマンR専用色の“ペリドット・メタリック”。セラミックコンポジットブレーキのPCCBやブラックペインテッドのカレラホイール、オートエアコンなどがオプション装着されていた。
誰もがイージーにシャープなドライビングを堪能できる
改めてテストドライブを行ったクルマは、セラミックコンポジットブレーキのPCCBやブラックペインテッドのカレラホイール、オートエアコンなどをオプション装着したもの。ただし、マヨルカ島で触れたMT仕様車にはスポーツエキゾーストシステムやショートシフターが装着されていたから、今回のモデルの方が多少なりともシンプルな内容の持ち主ということになる。
「911ターボからの贈り物」であるアルミ製の軽量ドアを開き、さっそくドライビングポジションを決める。右ハンドル仕様でも違和感は皆無なので個人的には絶対に「右」で迷いの余地はないのだが、今回のテスト車両は左ハンドル仕様。軽量化も意図してフードを廃されたシルバー塗色の3眼式メーターケースが、直射日光を受けるとウインドシールド内側に軽く映り込んでしまう点も含め、この段階での印象はすでに国際試乗会で経験済みのものと変わらない。
エンジン始動の完爆音が、ベースモデルとは別物の迫力を感じさせてくれた国際試乗会時の印象に比べると、そこまでの感動に乏しかったのは、やはり前出のスポーツエキゾーストシステムの有無に起因するはずだ。この点を含め今回のモデルでのサウンドに関する印象は今ひとつで、走行時にメインで届くのは大き目のロードノイズのみ。そこから逆算すると「ケイマンRの場合、オプションのスポーツエキゾーストシステムはとくにオススメ」ということになりそうだ。
同様に路面凹凸を拾った際の低周波ノイズ(ドラミング)も、今回乗ったモデルはそのレベルがやや大きかった。実は国際試乗会時のメモをひもとくと「ドラミングはない」と記してあってここでの差は明白。いずれも総走行3000km台のモデルでタイヤも同じブリヂストン ポテンザRE050と、それほどの程度差が生じているとは考え難いのだが……。
一方、何とも魅力的な運動性能や、望外と言っても良いコンフォート性の高さについては、8カ月前のイメージが鮮明に再現された。すなわち加速/減速にしろコーナリングにしろ、すべてが「過敏でない範囲内ですこぶる軽快、意のままに行える」ことこそが、まずはこのモデルに乗る最大の価値という印象なのだ。そして、それが走りのテンポをどんどんと高めても、どこまでも続いて行くという感覚も、ケイマンRの並外れた走りのポテンシャルの一端を示している。
911シリーズのボディ後端に重量物がドンと載せられたことによる圧倒的なトラクション能力は確かに大きな強みであり、魅力ではある。しかし、それゆえの限界領域に近付いた際のタイトなロープ上を渡るような独特の感覚は、こちらのモデルには存在しない。誰もがよりイージーに、すこぶるシャープなドライビングの感覚を堪能することができる。そうした点に関しては、あらゆるポルシェ車中の頂点に立つのが、このモデルであると評しても過言ではないのだ。
そして、そのようなこのモデルの走りの実力が、街乗りシーンでも「我慢いらず」の、時に「しなやか」という表現すら使いたくなるフットワークテイストと両立されたのも、改めて驚異的と感心せざるを得ない。すなわち、2ペダルPDK仕様の設定も含め、「万能スーパースポーツ」の最右翼にランクできるのが、このケイマンRであるということだ。(文:河村康彦)

インテリアの基調となるカラーはブラック。これにボディ同色のコンポーネントがあしらわれる。
ポルシェ ケイマン R 主要諸元
●全長×全幅×全高:4345×1800×1285mm
●ホイールベース:2415mm
●車両重量:1340kg
●エンジン:水平対向6DOHC
●排気量:3436cc
●最高出力:243kW(330ps)/7400rpm
●最大トルク:370Nm(37.8kgm)/4750rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:MR
●最高速: 282km/h
●0→100km/h加速: 5.0秒
●車両価格(税込):975万円(2011年当時)

