ボディ剛性もリーンフォースメントの追加などにより効率的にアップ
シャシに関して見ていくと、サスペンションは、フロントがストラット、リアがマルチリンクを継承しつつ、エボリューションVIII用に最適化している。サスペンションの基本性能向上と電子デバイスの補助ににより、ここに来て操縦性の優れた4WD車としての評価が確立した。
ボディは操縦安定性と走りの質感を向上させるため、最小限の重量増で最大の効果を得るピンポイント補強を実施している。具体的にはセンターピラー下部のインナーおよびアウターパネルに大型リーンフォースメントを追加し、アッパーボディとアンダーボディの結合が強化された。さらにフロントストラット上部、リアホイールハウス上面および側面へのリーンフォースメント追加、スポット溶接の増し打ち、ストラットタワーバー中央部とボディ側取付部の補強により、ボディ全体のねじり剛性とサスペンション取付部の剛性を向上させた。

左手前側が進行方向となるスーパーAYCのカットモデル。プラネタリーギア式のリアデフが見える。奥側の像減速ギアとクラッチでコントロールしてトルク移動量を増幅する。
エクステリアの特徴は一新されたフロントフェイスだ。この時期は、いわゆる三菱自動車のリコール隠し問題による販売不振や、ダイムラークライスラーとの合併時期の影響を受けており、「新生三菱自動車のデザインアイデンティティ」をフロントグリルに反映したと広報資料にある。実質は、ダイムラークライスラー側の意向が強く反映されたデザイン変更なのは否定できないところであり、従来のファンからは必ずしも好評ではなかった。
機能面から見れば、フロントバンパー中央部の開口部を10%拡大し、インタークーラーの冷却効率の向上を図っている。さらにバンパー左右下部の開口部をダクト形状に改良し、エンジンオイルクーラーの冷却効率を高めた。新形状の大型アンダーカバーはダウンフォースを大幅に向上させ、トランスミッションとトランスファーへの冷却風を導くディフューザーを追加。ブレーキへの冷却風を導くエアガイドも従来通り装備した。リアスポイラーは、CFRP(カーボン繊維強化樹脂)を水平翼と垂直翼に採用したが、これは4ドア量産セダンとして世界初の試みとなった。軽量かつ高剛性というその特性を活かし、翼断面形状を最適化することで空気抵抗を抑えつつダウンフォースを増大させた。加え車体前部・上部、バネ下を中心にさらなる軽量化を推進した。

フロントマスクはダイムラー・クライスラーのオリビエ・ブーレイ氏が提唱する新しいU字型グリルを採用して話題となった。
GSRは、6速MT化による重量増加(約10kg)を相殺し、従来車とほぼ同等の重量を達成。RS(5速MT仕様)は競技ベース車両として装備と遮音材の最適化により、従来車比で約20 kgの軽量化を実現した。インテリアはオフブラックのモノトーンを基調に、ダークチタン調塗装のパネルを随所に配置し、スポーツドライビングに適した機能的かつスポーティな空間を演出している。インストルメントパネル上部のオーナメントはブルー系塗装で、シート生地とのカラーコーディネートを図った。センターパネルもダークチタン調塗装とし、GSRでは2DIN、RSでは1DINオーディオ対応キットを標準装備している。
タコメーターを中心とした多連スポーツメーターには、米国仕様と共通の270km/hフルスケールスピードメーターを新採用。シフトノブは操作性を追求した小径球体形状で、6速MT車のシフトレバーパネルにはリアスポイラーと同じカーボン繊維を用いた"Evolution"ロゴプレートを配置。レカロ製フルバケットシートは、サイドサポート部の形状を見直し、光沢のあるブルー系ニット生地にエンボス加工を施した。

コクピットは、オフブラックのモノトーンを基調色として、ダークチタン調塗装のパネルを随所に配し、スポーティにまとめた。
タイヤは、GSRおよびRS(6速MT仕様)にハイグリップコンパウンドと高剛性カーカスを採用した235/45ZR17(ADVAN A046)を装着。エンケイ製6本スポーク17インチアルミホイールは新製法により強度を確保しつつ、4本合計で3.2kgの軽量化を実現。RS(5速MT仕様)は205/65Rタイヤと15インチスチールホイールを標準装備とし、17インチ仕様をオプションとした。ブレーキは、GSRにフロント17インチ4ポット、リア16インチ2ポット(ブレンボ製)を採用。ハンドル角センサーと連動したスポーツABSは、4輪を独立制御し、制動時の操縦性能を向上。EBD(電子制御制動力配分システム)により、路面状況や積載状態に応じた制動性能を実現した。盗難防止のイモビライザーを全車に標準装備し、GSRにはキーレスエントリー以外の解錠時に警報が鳴るセキュリティアラーム機能をオプションで追加可能だ。
モータースポーツでの活躍だが、WRCではWRカーによる戦いが行われるようになったため、エボリューションVIIIはグループAとして参戦していないが、グループNではプライベーターに広く使用され、高いシェアを獲得。国内モータースポーツでの活躍は顕著で、特にACDの改良が大きな成果を上げた。エボリューションVIIでは効き方が不自然との声があったが、エボリューションVIIIではドライバーの操作フィーリングに合うと評価が向上したのだ。フルタイム4WD車にとってセンターLSDのセッティングは難しく、特にビスカスLSDではセッティングに限界があった。ACDはこれを解決し、走行条件に応じてフリーからロックまで賢く制御。さらにモード切り替えで効き方を調整でき、ジムカーナでのサイドブレーキターンとトラクション重視の両立を可能にした。ここに来てACDは「使える」から「使わなければ勝てない」デバイスとなり、エボリューションVIIIは国内4WDクラスのタイトルをほぼ総なめにした。
ランサーGSRエボリューションⅧ主要諸元
●全長×全幅×全高:4490×1770×1450mm
●ホイールベース:2625mm
●車両重量:1410kg
●エンジン:直4DOHC16バルブ+インタークーラーターボ
●排気量:1997cc
●最高出力:280ps/6500rpm
●最大トルク:40.0kgm/3000rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:フルタイム4WD
●10.15モード燃費:9.7km/L
●車両価格(当時):329.8万円


