シャシがうまく働くことで素晴らしい乗り心地を実現
クローズドのままでエンジンをスタートさせた。勇ましいV8ノートが、と言いたいところだが、そんなものは聞こえてこない。ブルン、とフツウにエンジンは目覚めた。
ひょっとしてオープンにすれば、もう少し勇ましいのかと、いったんルーフを上げてエンジンを切り、もういちど掛けてみたが、そう変わらない。上品なスタートである。なるほど、勇ましいノートは63AMGに取ってあるというわけか。
コンフォートとスポーツの2段階(個人的には、この2段階方式に賛成。この間にノーマルなどいらない)に調節できるダンピングシステムが標準で備わっているが、まずはコンフォートで走り出してみた。
静止状態から微速域まで、ステアリングはかなり軽い。システム的には、CLSクラスで初採用されたモーター付き機械式可変ギアレシオのダイレクトステアと同じものを採用したわけだが、さらにクイックかつダイレクトなチューニングだ。
スッと軽やかなステップで加速態勢に入った。ボディの強さ、しっかり感が早くも旧型とは別次元であることがわかる。乗り心地が素晴らしい。強いボディのもと、足まわりがよく動いているのがわかる。とくに段差などをシャンといなして、シュッと瞬時に収めるときのフィーリングが、このうえなく心地いい。
アルミボディに特有の、融通のきかないジャングルジムに乗っているような感覚(たとえばSLSフィール)も、まるでない。もっと言えば、転がした感覚がアルミボディらしくない。かっちり組み上げてあるのに、反応はすべてしなやか。まるで、一体成形されたシェルが動いているような錯覚に陥った。各部位におけるアルミニウムの最適な設計や接合技術によって、このような一体感が生まれたのだろう。
メルセデスにとっては、量産車で初となるアルミニウムシェル設計だったが、その古い付きあいを物語るかのように、それは完成度の高い、手練の仕事を思わせるものだった。

低音用スピーカーをドアではなくシート下に設置する「FrontBassシステム」を搭載している。
オープンにし、ウインドウを上げていると、風の巻き込みがほとんどないのはもちろん、静かなことにも驚かされる。運転中はそれでも、エンジンの鼓動やトランスミッションの動きなど、必要最低限の情報が入ってきたが、助手席は尋常じゃなく静かだった。乗り心地の良さと相まって、オープンエアで乗っていることさえ忘れてしまうほどである。
ダンピングモードをスポーツにする。同時に、シフトスケジュールもSを選んだ。それまで気分よくロールしていたアシがドライバーに「腰の入れ具合」を教えるだけのロール量に収まり、ステアリングフィールもより正確さが増した。
トレッドが広がったぶん、腰をリアにグッと入れたあとの安定感も、ずいぶんと大きく、頼もしい。
踏めばクォーンと心地よく響くけれど、ワクワクするレベルではないエンジンが、それでもツキのいいパワーフィールでドライバーを急き立てる。あわててしまったドライバーは、あらゆるコーナーでツッコミがちになってしまうが、それをトルクベクタリングブレーキとESPが上手に救う。なるほど、スポーツカーとしても数段、進化した。
次にABC付きを試す。ひとことで言えば、ノーマルのアシに輪をかけて「極上」なライドフィールである。タイヤのインチアップをものともせず、18インチと同じくらい、否、ことによるとそれ以上のライドコンフォートを19インチでもみせた。もちろん、アジリティの豊かさとコントロール性の高さでも18インチをわずかに上回っている。オススメは、断然、ABC付き、だ(と思っていたら、日本仕様の550はABCが標準。素晴らしい)。
ふだん使いの実用性と、スポーツカーの嗜みを備えたラグジュアリーロードスター。SLは、確かにSLとして、格段の進化を果たした。(文:西川 淳)
メルセデス・ベンツ SL500 主要諸元
●全長×全幅×全高:4612×1877×1315mm
●ホイールベース:2585mm
●車両重量:1785kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:4663cc
●最高出力:320kW(435ps)/5250rpm
●最大トルク:700Nm/1800-3500rpm
●トランスミッション: 7速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h (リミッター)
●0→100km/h加速:4.6秒
※EU準拠



