「誰もが手軽にドライビングを楽しめる」を目指して
ここ数年、若者のクルマ離れなどと言われ続けてきたが、それは若者の興味を持てるクルマがなかっただけなのかもしれない。具体的には、手の届くような価格で欲しいと思うクルマのことである。いい悪いは別にして、クルマは所有するだけでなにかとお金がかかるもの。そこまでして欲しいと思うクルマがなかったのだろう。
そこで、BRZである。「誰もが手軽にドライビングを楽しめるクルマ」を目指したこのスポーツカーには、205万8000円からという車両価格が付けられた。実際、この価格には若者も興味を示し、ディーラーに足を運んでいるようだ。だからといってすぐにこぞってBRZを買うとは限らないようだが、しかし、今までとは違った年齢層の人がスバルディーラーにクルマを見に来る、という現象は起こっている。

撮影車両はSグレード。ボディカラーはライトニングレッド。ボディの下にアンダーカバーを装着してCd値0.27を実現。
BRZは、Boxer=水平対向エンジン、Rear Wheel drive=後輪駆動、Zenith=究極からネーミングされた。ここでスバルは「水平対向エンジン」とともに「4WD」にも長い間こだわり続けてきたメーカーなのでは、という疑問も浮かぶ。そう、BRZは後輪駆動、つまりFRである。そこにスバルファンは少しも違和感がないのだろうか。すぐに4WD版BRZを出すのだろう、と考えてしまうのは早計だろうか。
しかし、スバルは本気でこのFRスポーツを開発したようだ。その基本にあるのは40年もの長きにわたり培ってきた4WD技術からフィードバックした四輪をマネージメントするという考え方である。BRZに乗るまでは半信半疑だったが、運転席に座った瞬間から本気度がクルマから全身に伝わってきた。
トヨタとの共同開発だが、スバルらしさが強く感じられる
このFRスポーツの誕生に大きく関わっているのはスバルの水平対向エンジンBOXERである。この2L BOXERエンジンは、ボア×ストロークをスクエアな86.0mm×86.0mmとし、広い回転域でアクセルペダルの操作に対する高出力&高トルクを実現した燃料噴射システム「D-4S」を搭載する。軽量で、コンパクトであり、低重心を実現したこのエンジンが、BRZのスポーツ性の根幹にある。
BOXERエンジンを使うメリットはとても大きい。軽量&コンパクトは、53:47という優れた前後重量配分を実現して重量バランスを改善し、コーナリング時の荷重移動を減らすことで4つのタイヤが路面をしっかりと捉え、ドライバーに豊かで正確な情報を伝えるのだ。
さらに低重心のメリットを最大限に生かすレイアウトを実現した専用プラットフォームは、路面に限りなく近い460mmという重心高を実現し、ロールモーメントを小さくすることに成功している。これも左右のタイヤの荷重移動を少なくすることに貢献し、意のままに操るというクルマとの一体感をもたらしている。

赤ステッチ付本革巻ステアリングホイールは標準装備。
試乗車はBRZ Sの6速MT仕様。ハンドルからの持ち替えや操作のしやすさなどを考えたレバー位置や角度までこだわって設計したMTのシフトフィールはとてもスポーティである。またアクセルペダルを踏み込めば7000rpmまで跳ね上がる回転計の針は、スポーツカーを運転しているという気持ちをいっそう盛り上げる。走る楽しさをドライバーが感じるのは、こうしたひとつひとつの操作や視覚、音からなのだろう。
トヨタとの共同開発によって生まれたBRZではあるが、実際に走ると、強くスバルスピリッツを感じる。スバル側の開発指揮をとった執行役員兼開発上級PGMの増田さんはこれを「スバルウェイ」と表現したが、レガシィやインプレッサに乗ったときに感じるスバルらしさがBRZでも感じることができるのだ。
それは4輪が路面とコンタクトしていることがハンドルやシート、ペダル類などさまざまな場所からドライバーに伝わってくるということである。4WDへのこだわりを新たなエンジニアリングとしてFRスポーツへと昇華させたBRZは、スバルにしか作れなかったクルマなのかもしれない。(文:Motor Magazine編集部 千葉知充)
スバル BRZ S 主要諸元
●全長×全幅×全高:4240×1775×1300mm
●ホイールベース:2570mm
●車両重量:1230kg
●エンジン:水平対向4DOHC
●排気量:1998cc
●最高出力:147kW(200ps)/7000pm
●最大トルク:205Nm/6400-6600rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
●車両価格(税込):279万3000円(2012年当時)




