文:大谷達也/写真:アウディ ジャパン
アウディTT RSの2.5L 直列5気筒エンジンは滑らかさと息の長い加速が魅力
スポーツカーとはなにか。私は2年前にフルモデルチェンジした3代目TTならびにTTSも、今回テストしたTT RSも立派なスポーツカーだと認めているが、2代目までのTT(ならびにTT RS)は残念ながらこの範疇に入らない。スポーツカーの定義、もしくはその境界線について考えたくなったのは、そんなことがきっかけだった。
スポーツカーについて考えることはスポーツドライビングについて考えることにほかならない。ドライビングの楽しさとは、クルマを自分の思いどおりに操ることにある。そして私にとってのスポーツドライビングは、この行為をより積極的に行うことであり、つまりは前後左右のGを精妙にコントロールして、思い描く姿勢で狙った走行ラインをトレースすることに他ならない。
ここで重要になるのが前後バランスだ。それも単なる重量バランスではなく、ステアリング、スロットル、ブレーキを駆使して前後のグリップレベルをコントロールし、ラインや姿勢を思いどおりに微調整できるか否かという意味でのバランスが重要となる。
裏を返せば、前後のグリップバランスをコントロールできないと、クルマによって一義的に決められたコーナリングしかできず、結果的にドライバーが工夫できる余地は残されていないことになる。よほどのことがない限り、私はそのようなクルマをスポーツカーとは認めない。
2年前にデビューした3代目TTは、見事にこの定義に当てはまる。だからこそ、私はスポーツカーと認めたのである。
では、新型TT RSはどうか。TTもしくはTTSとTT RSの最大の違いはエンジンにあると言っていい。前者はいずれも2L 4気筒を積むのに対し、後者はアウディがハイパフォーマンスカーに好んで用いてきた2.5L 5気筒エンジンを搭載する。この場合、エンジンを積むフロントが重くなり、スポーツカーとしてのバランスが崩れる恐れが出てくる。私がもっとも注目したのはこの点だった。
(後編へつづく)