文:大谷達也/写真:アウディ ジャパン
しなやかなサスストロークで乗り心地は意外や優しく快適
私の心配にアウディは5気筒エンジンを新開発して応えてくれた。およそ8年ぶりに刷新された新エンジンは、クランクケースなどを鋳鉄製からアルミ製に改めることで26kgもの軽量化を達成している。
しかも最高出力は先代TT RSプラスの360psから400psへ、最大トルクは465Nmから480Nmへとパフォーマンスの向上も果たした。さらにこの新エンジンは、普段は排気音も控えめで黒子役に徹してくれるのだが、アクセルペダルを踏み込むと7速Sトロニックが直ちに反応。デュアルクラッチ式ならではの歯車と歯車の強固な連結によりダイレクトにエンジントルクを伝達し、歯切れのいい加速感を生み出してくれるのだ。
それも、刹那的な快感だけでなく、踏み続ければそのまま息の長い加速も示してくれる。ちなみに0→100km/h加速は3.7秒。このクラスとしては異例とも言えるその速さに、抜群のトラクション性能を誇るフルタイム4WDのクワトロシステムが大きく貢献していることは想像に難くない。5気筒エンジンの全域での滑らかさも魅力だ。しかも、トップエンド付近では4気筒とは微妙にビート感が異なる「トゥルルルル……」というエンジン音を響かせて、その個性を主張する。
試乗したのがまだ春浅い3月下旬だったこともあって、テスト車にはウインタータイヤが装着されていたが、そのことを差し引いて考えても乗り心地は快適で、路面の小さな凹凸に対しても素直にストロークするしなやかさが感じられた。
もちろん、ペースを上げてもコーナリング時の姿勢は安定しており、しかも前後バランスの良さは3代目TTやTTSと同様で、これが軽快な操縦性を生み出している。優しい乗り心地でも、ハンドリングは一切犠牲になっていない。
これは最近のアウディのスポーツモデルに共通した傾向だが、可変ダンパーのマグネティックライドを装着したモデルを中心に、乗り心地と操縦性のバランスが一気に向上したように思う。TT RSに標準装備されるマグネティックライドはお勧めのアイテムだ。
TT RSは洗練さとパフォーマンスを兼ね備えたスポーツカーとして注目に値するモデルである。