バッテリーやモーターの進化で、ダウンサイジングが可能になった。
FCVのイメージの強いクラリティだが、北米ではすでにEVやPHEVが販売されている。
2030年をメドに市販四輪車の3分の2を電動化することを目指しているホンダは、中でもPHEVが主流となると見込んでいる。そこでアコードPHEVの販売終了からしばしの中断を経て、クラリティPHEVを日本国内にも導入するはこびとなった。
動力源はアコードPHEVと同じ2モーターのi-MMDの進化版で、モーターの巻線の高密度化や磁気回路の最適化などにより+8Nm、+11kWの性能向上とともに、23%もの小型軽量化をはたしている。
バッテリーも17kWhと大幅に大容量・高出力化を実現。これらによるEV走行範囲の拡大と高効率化によりエンジン負荷が減少したことで、1.5L化が可能となった。
I-MMDはモーターが駆動軸に直結しており、エンジンは主に発電機として働き、基本的にバッテリーで走って足りなくなるとエンジンを回し、高速ではエンジン直結で駆動するという仕組み。
走行モードはノーマル/ECON/スポーツの3種類を選択可能で、加えてバッテリー充電を優先するHVモードが設定されており、ボタンを長押しすると約60%になるまで積極的に充電を行なう。
試乗路は高低差がきついが、ECONモードで走ると、よほど強くアクセルを踏み込まない限りエンジンがかかることなく延々とEV走行し続け、それがかなり高い車速域まで維持されることに驚かされる。さすがはEV航続距離が100km以上で、EV最高速は160km/hと謳っているだけのことはある。
そして、とにかく静かであることも印象的だ。EV走行時はもちろん、エンジンがかかっても煩わしさを感じることがないほど静粛性にこだわって開発されたことがうかがえる。
静寂の中でも加速フィールはなかなか力強く、リニアなレスポンスも心地良い。アクセルペダルにEV走行とHV走行の境界を知らせるクリック感が設けられているのも新しいアイデアだ。
せっかくのクローズドコースなので全開加速を試みると、その瞬発力には圧倒されるばかり。ただし、トップエンド近くでエンジン回転が急激に上がってしまう現象が見受けられたのだが、それはドライバーが求めた加速力を生み出そうとロックアップを切り離して全力で発電するためだ。日常的な使い方では、それほど気にする必要もないだろう。
回生ブレーキの強さはパドルで4段階から選べるようになっている。各々の差はやや小さく、最強にしてもブレーキランプが点灯しない程度で減速度はそれほど強くないため、いわゆるワンペダルドライブができるほどではないのだが、開発関係者によると違和感がないことを優先したのだという。
フットワークの仕上がりも申し分ない。大柄なクルマながら俊敏で一体感もあり、低重心により安定性が高く、曲がりくねったコースでも気持ち良く走れたことも印象的だった。
実用性の面でも何かを犠牲にした印象がまったくないことも特筆できる。前後のシート下に分散してバッテリーを入れたおかげで、上質な室内空間はDセグメントのセダンとして求められる十分な居住性を確保しているし、「足引き性」と呼ばれる後席のカカトの収まりもよく、自然にスッと乗り降りできる。
トランクも十分に広く、使いやすい形状になっているおかげでゴルフバッグをラクに積み降ろしできそうだ。
価格は少々高めな気もするが、そのぶん中身も非常に充実している。
PHEVでここまでやったのはこのクルマだけと開発陣も自負しているとおり、先発の競合車たちを多くの点で凌駕したクラリティPHEVは、一気にPHEVのトップランナーになったといえそうだ。
(文:岡本幸一郎/写真:森山俊一)
ホンダ・クラリティPHEV EX 主要諸元
●全長×全幅×全高:4915×1875×1480mm
●ホイールベース:2750mm
●重量:1850kg
●エンジン型式・種類・排気量:LEB型・直4DOHC・1496cc
●エンジン最高出力:77kW[105ps]/5500rpm
●エンジン最大トルク:134Nm[13.7kgm]/5000rpm
●モーター最高出力:135kW[184ps]/5000-6000rpm
●モーター最大トルク:315Nm[32.1kgm]/0-2000rpm
●JC08モード燃費:28.0km/L(ハイブリッド)
●燃料・タンク容量:レギュラー・26L
●トランスミッション:電気式無段変速機
●タイヤサイズ:235/45R18
●価格:588万600円