良く回る、楽しいエンジンがお気に入り!
日産初のFF車が初代チェリー。プリンス系技術者による設計で、1970年に発売された。サニーよりも下のクラスのため、ボディは若干小さい。これはサニーと同じA型エンジンを横置きにしたことで実現している。ミッションをエンジンの下に置く2階建て設計を採用しているが、これはA型の本家、イギリスのミニと同じだ。
![画像: チェリークーペといえばオーバーフェンダー装備のX-1・Rの印象が強い。リアクオーター形状が独特だが後方視界は思ったより悪くない。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2018/12/04/c83d078a8413ce5991bf9b6a0aea142177255597_xlarge.jpg)
チェリークーペといえばオーバーフェンダー装備のX-1・Rの印象が強い。リアクオーター形状が独特だが後方視界は思ったより悪くない。
チェリーは当時の好景気を背景に、若者や軽自動車からの乗り換え需要を見越していた。当初は2ドアと4ドアのセダンのみだったが、71年に3ドアクーペを追加。このチェリークーペを日産ワークスはツーリングカーレースへ出場させる。当時は日本グランプリが終了して、レーシングカーによるグランチャンピオン(GC)シリーズが始まる。
その前座にツーリングカーレースが開催された。マイナーツーリングやTSと呼ばれ、メインレースのGCより人気があったほどだ。そこに参戦したチェリーはFFのため雨のレースでは滅法速く、オーバーフェンダーをまとった姿が印象的だった。
![画像: チェリーに搭載時の排気量は1171ccになっていたA型エンジン。X-1・Rでもミッションは4速MTだが、俊敏なレスポンスで楽しく走ることができる。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2018/12/04/42627ebcb06b7009cc5e7755648ae2735934b345_xlarge.jpg)
チェリーに搭載時の排気量は1171ccになっていたA型エンジン。X-1・Rでもミッションは4速MTだが、俊敏なレスポンスで楽しく走ることができる。
レースのイメージを踏襲して、チェリークーペにオーバーフェンダーを装備するX-1・Rが73年に発売される。GCを見に行くような若者に、このスタイルは人気爆発。レーシングカー風にカスタムすることも流行した。これが街道レーサーのルーツ的存在の1台でもあった。
![画像: FFのため足もとが広いチェリーだが、X-1・Rにはシフトの奥に電圧計と油圧計を備えるスポーティなコンソールが装備されている。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2018/12/04/a9d3ae244be69434aacee2a1be0424dc2c20aefb_xlarge.jpg)
FFのため足もとが広いチェリーだが、X-1・Rにはシフトの奥に電圧計と油圧計を備えるスポーティなコンソールが装備されている。
このチェリーのオーナーY氏も、そんなひとりだった。当時はまだ20代前半。手に入れたチェリーは車高を下げるだけ下げ、ワイド加工したホイールにリアスポイラーを装着して乗っていた。Y氏いわく「ペタペタで乗るのがカッコ良かった」。
![画像: シルバーのメーターパネルはケンメリ・スカイライン風でスポーティ。走行距離はまだ6万キロ台で傷みは少ない。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2018/12/04/da4624a0598accdfe73165b268e892013ced6ace_xlarge.jpg)
シルバーのメーターパネルはケンメリ・スカイライン風でスポーティ。走行距離はまだ6万キロ台で傷みは少ない。
その後は順調にクルマを乗り換えたが、チェリーを手放して10年ほど経つと、また乗りたくなったY氏。独特のスタイルと良く回るA型エンジンの魅力は、他のクルマでは得られなかったからだ。
当時はまだ1年車検だったためクルマは手軽に手に入ったけれど、仕事で独立して子育てもある。チェリーはしばらく保管するだけになった。
![画像: 70年代当時に乗っていたクルマと同じリアスポイラーを装着する。エンブレム類はすべて外してサビを予防している。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2018/12/04/fe089706dd9b7cd71c6c3294493a392478e7c29b_xlarge.jpg)
70年代当時に乗っていたクルマと同じリアスポイラーを装着する。エンブレム類はすべて外してサビを予防している。
車検を切らしてから20年、ある年の旧車イベントでチェリーばかりが集まることになった。それならとY氏はチェリーの復活を決意。ボディは全塗装をして、エンジンは部品があるうちにとオーバーホールした。
![画像: このクルマの正式名称は、1973年式 日産チェリークーペ 1200X-1・R。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2018/12/04/2b1045f40694a7758d264b972a12c327cae31778_xlarge.jpg)
このクルマの正式名称は、1973年式 日産チェリークーペ 1200X-1・R。
「ソレックスもいいけど」と、キャブレターは純正のSUツインのまま。だが調子はすこぶる良く、純正キャブを見直したそうだ。とても良く回り、楽しいエンジンがお気に入りだ。(文:増田 満/写真:伊藤嘉啓)
チェリークーペ 1200Xー1・R 主要諸元
●全長×全幅×全高:3690×1550×1310mm
●ホイールベース:2335mm
●重量:645kg
●エンジン型式・種類:A12・直4 OHV
●排気量:1171cc
●最高出力:80ps/6400rpm(グロス)
●最大トルク:9.8kgm/4400rpm(グロス)
●燃料供給装置:SUキャブ×2
●燃料タンク容量:36L
●トランスミッション:4速MT
●タイヤサイズ:165/70HR13
●価格:63万8000円(1973年当時)