5代目ゴルフGTIの日本上陸直前、ゴルフGTXが発表されているのを憶えているだろうか。GTIと同じ200psの2L直4直噴ターボエンジンを搭載した豪華仕様だが、このモデルはゴルフシリーズ全体の価値を引き上げるとともに、後に沸騰するゴルフGTI人気の火付け役ともなったのだった。ゴルフGTXはどんなモデルだったのか、当時どのように評価されていたのか、振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年5月号より)

ゴルフGTIと異なりゴルフGTXの主張は控えめ

新型GTIの日本上陸が待ち遠しいゴルフVだが、6月のGTI導入を前に「ツウ」な仕様が追加された。GTXである。

輸入車の高級化路線は、それ自体ゴルフが火を付けたと言えなくもないが、ここ最近非常に顕著になってきている。フォルクスワーゲングループジャパンによれば、200万円台の量販ゾーンが年ごとに減少しているのに対し、同じ車格でも300万円超モデルが確実に数を増やしているという。

実際にゴルフで言えば、現在販売されている3グレードにおいて、およそ半数がトップグレードのGT(税込みで約300万円)であり、残りをEとGLiで二分しているというのが実状らしい。Eこそゴルフだ、と断言してみても、ユーザーは少しでも豪華な仕様を求めているという現実には敵わないということだ。要するにフォルクスワーゲンとしては、こうした市場の動向を睨みながら、GTXとGTIでゴルフブランドの定着をより高位で図ろうということだろう。

これまでにもGTXを名乗る仕様はあった。スポーツ路線のGTIに対してほぼ同じ性能をもつ「一番ラグジャリー」なゴルフという位置づけだが、5代目のゴルフにおいてもそれは変わらない。

ただし、もうじき日本にやってくる新型GTIの性能そのものが大きく進化しているため、GTXもそのプレミアム志向と性能を一段と高めているという点が見どころになる。

エクステリアにおけるGTXの主張は、大仰なグリルとなるGTIと違って、ごく控えめである。通り過ぎるゴルフがGTであったか、GTXかを見分けるのは困難だ。停止しているゴルフを見て、これはGTXであると識別するためには、5本スポークの大径17インチホイールを履くことと、ディスチャージドヘッドランプで目つきが少し違うこと、そしてリアのGTXエンブレムを見つけなければならない。

エンブレム以外、専用色のシャドーブルーメタリックを纏っていたとしても、ゴルフオーナーでもなければわからない差異である。リアのダークティンテッドグラス仕上げもそうだ。後述する性能もふまえ、だからこそ「ツウの選択」ということもできるのだが。

翻って、インテリアはどうだ。これはもう既存グレードとは全く別の雰囲気を醸し出している。アンスラサイトもしくはベージュとなるレザーインテリアは、GTのレザーパッケージ仕様でもお目にかかることができるが、ステアリングホイールやダッシュパネルトリム、前後ドアトリム、センターコンソール、そしてシフトノブに奢られたウォールナットウッドパネルにより、「これがゴルフ?」と見紛うほど華やいだ雰囲気だ。

ウッドを使うことに関しては、賛否両論があるだろう。個人的には質感のいいものが使われている限り認める立場だ。嫌うユーザーも増えつつあるだろうから、選択できるにこしたことはないとも思うけれど。GTレザーパッケージ仕様と同じ12ポジション調節のレザーシートに座ってみる。確かに視界にあるインテリアは上々の質感をもっている。あちらこちらを細かく指で押してみる、といったチェックをしなくとも、仕上げレベルの高さを感じさせる。

質感が高い=プレミアムなどというものは、本来、漠然と座ったときに感じるもので、言うべきものでも、細かく調べるべきものでもないはずだ。小さなことを積み上げた結果、室内の空気に包まれた瞬間に居心地の良さとなって思うべきものである。それが上質ということだろう。GTXにはそれがある。

画像: ウッド&レザーのステアリング、ウォールナットのウッドパネルとシフトノブ、そしてMMSが標準装備される。GTXならではの贅沢。

ウッド&レザーのステアリング、ウォールナットのウッドパネルとシフトノブ、そしてMMSが標準装備される。GTXならではの贅沢。

余裕の走りを見せながら「お買い得」な価格設定

ハイライトはGTI譲りのスペックとパフォーマンスだ。ベースはGTである。GTには元来、標準車より20mmダウンのスポーツサスペンションが装備されるが、GTXはそれをベースにリアのスタビライザー径を太くするなど専用のチューニングを施した。

何のためか。パワーユニットが例のGTI用2L直噴直4DOHCインタークーラーターボだから、だ。GTの自然吸気FSI同様に、連続可変バルブタイミングや樹脂製可変吸気マニホールド、さらにはバランサーシャフトなど、先進のメカニズムを備えるうえ、ターボチャージャー付きながら10.3という高圧縮比を達成。高出力・大トルクを低回転域から吐き出すパワフルなユニットを積むから、なのである。

組み合わされるトランスミッションはアウディで高い評価を得ているダイレクトシフトギアボックス(DSG)だ。オートマチックではDレンジ(通常モード)とSレンジ(スポーツ)があり、マニュアルのティプトロニックモードの操作はシフトレバーのみで行う。ステアリングのパドルは装備されない。

走り出してすぐに感銘を受けるのは、抑えがたいほどに湧き出る豊かなトルクだ。エンジン性能曲線を見れば30kgm近い力が2000rpm手前から路面に伝えられているのだから、なるほどと思うしかない。

そのままアクセルを踏み続けると、力強くそして滑らかな加速に、鳥肌が立つ。DレンジにあってもDSG特有の、キレがあってショックがないシフトチェンジが加速の快感に寄与している。で、アッと言う間にイリーガルな速度域に達する。直進安定性には元々定評のあるゴルフだ。アクティブリターン機能のついた、フィーリングのすこぶるいい電動パワーステアリングも相変わらずしっとりと手に馴染む。

1.6LのEでも驚くほどのGT性能を見せるが、GTXはまさにグランドツーリングカーの領域にある。どこからでも意のままに加速できるし、直進時、車線変更時、そして減速時と、極上の安定感を示す。要するに、高速走行においてストレスがほぼないに等しいのだった。

それはGTIにまかせておけばいい、と思いつつもワインディングに向かう。パドルシフトがないから、2ペダルのメリットであるステアリングホイールを握りしめたままのシフト操作はできない。が、それでもクラッチペダル付きのマニュアルミッション車よりは、クルマの向きを変えることに集中できる。

アップ、ダウンともにシフトチェンジのスムーズさは相変わらずいい。ダイレクトさがもっと感じられるモードがあれば、とも思うがGTXという高級志向のクルマには、そんなセッティングは不必要だろう。それにしても、適切に過大なパワー&トルクとでも言えばいいだろうか、扱いきれる範囲内でしかもふんだんな力の出し方は、この直噴ターボエンジン最大の魅力。この分だとGTIにも相当に期待がもてる。

値段の話で締めよう。GTXの価格は税込みで367.5万円だ。売れセンのGTが299.25万円で、そのレザーパッケージが328.65万円という設定になっている。ターボ+DSGのパフォーマンスにディスチャージドヘッドランプ、ウッドインテリアなどを加え、さらに他グレードでは約25万円のオプションとなるマルチメディアステーションが標準装備で、GTレザーパッケージの約40万円高は、けっしてベラボウではあるまい。GTの存在が危うくなるほどの価格設定である。となると気になるのはGTIの値段。「贅沢」装備がなくてGTXより少し安いと考えるのが順当だろう。

プレミアム志向が強くなる一方のゴルフに批判の声も確かに聞こえるが、他にないいいクルマであり続ける限り、私は積極的な肯定派でいたいと思っている。(文:西川 淳)

画像: ゴルフGTIに先んじて導入された2Lの直噴ターボ。その全域トルクフルなエンジン特性はゴルフに新たな走りの世界をもたらしてくれる。

ゴルフGTIに先んじて導入された2Lの直噴ターボ。その全域トルクフルなエンジン特性はゴルフに新たな走りの世界をもたらしてくれる。

ヒットの法則のバックナンバー

フォルクスワーゲン ゴルフGTX(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4205×1760×1500mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1460kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:200ps/5100-6000rpm
●最大トルク:280Nm/1800-5000rpm
●トランスミッション:6速DCT
●駆動方式:FF
●サスペンション:前ストラット後4リンク
●車両価格:367.5万円

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