2005年に登場した3代目アウディA4(アウディ80時代から数えると7代目)は、先代デビューから4年しか経っていなかったこともありマイナーチェンジかと思われたが、実際にはルーフ以外のボディパネルをすべて一新したフルモデルチェンジだった。折しもBMW 3シリーズが新世代となる5代目E90に移行しようとしていた時であり、アウディがライバル心剥き出しで開発してきたことがわかる。アウディA4(B7型)はどう進化していたのだろうか。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年5月号より)
ビッグマイナーチェンジではなく、フルモデルチェンジ
「B7」というのが新しくなったアウディA4の社内呼称である。Bは、フォルクスワーゲン・グループ内でのセグメントを示し、7は7世代目を意味する。つまり先代はB6と呼ばれていたわけだが、実はそのB6とは、2001年にデビューして、つい先日まで販売されていたあのモデルのことを指す。そう、いわゆるビッグマイナーチェンジだとばかり思っていた新型A4、アウディの中ではフルモデルチェンジであるという認識なのだ。
思えば先々代、いわゆるB5型のA4も、モデルライフ後期に大規模な改良を実施している。しかし、その時の呼称はB5のままで変わらなかった。それが今度は、完全に新しい世代に入ったというのがアウディの認識なのである。それだけでも、新型A4へのメーカーの力の入れようがわかるというものだろう。敢えて一般的ではない社内呼称の話から始めたのは、まさにそのことが言いたかったからである。
それほどまでに気合いの入った新型A4、では一体どこがどう変わったのか。まず明らかなのは、例のシングルフレームグリルをフューチャーしたフロントマスクだ。その大きなグリルは、中央部分が逞しく盛り上がったボンネットフードと合わせて、端正だった先代とは一転、実に力強い表情を作り出している。そんな印象には新形状のヘッドランプの効果も小さくなさそうだ。
つい、この顔にばかり目が行ってしまうが、実は新型A4のボディは、ルーフ以外のすべてのパネルが新しくなっているという。つまりフェンダーもドアもボンネットも、すべて新規で起こされているのだ。確かにボディサイドを走るキャラクターラインは、従来より折り目が強く深くエッジが立っている。また個人的には、従来はTTの流れを汲んで明確に浮かび上がっていたフェンダーアーチが、よりボディに溶け込んだかたちとされたのも興味をひいた。もろにその影響を受けた、コピー紛いの商品が氾濫する今、アウディ自身はそれが陳腐化する前に、次の段階へと進んだというわけである。
これらの変更によって、ボディサイズは全長が30mm、全幅が5mm大きくなった。ホイールベースは変わらず。全長拡大分のうち20mmはリアオーバーハングに充てられており、ラゲッジ容量はセダンが先代の445Lから460Lへ拡大。一方、アバントは442/1184Lで変更はない。
充実のエンジンラインとサスペンションの進化
中身の変化では新しいエンジンラインナップが注目だ。用意されるのは3種類。うち2つが新型である。最高峰として用意されるのは、先にA6に搭載されたV型6気筒3.2L FSIユニットである。そのスペックは最高出力255ps/6500rpm、最大トルク33.6kgm/3250rpmで、従来の3.0Lに対して35ps、6kgm増し。それでいて10・15モード燃費が8.2km/Lから8.5km/Lに向上してるのは、まさにFSI効果だろう。
もうひとつは直列4気筒2.0L TFSI、つまりガソリン直噴ターボである。こちらは最高出力200ps/5100〜6000rpm、最大トルク28.5kgm/1800〜5000rpmで、先代の1.8Lターボ比30ps、5.6kgmの大幅な増強となる。10・15モード燃費も9.7km/Lから9.8km/Lへとわずかに向上している。
フルタイム4WDのクワトロとなる両ユニットには、これまた新採用となるティプトロニック付きの6速ATが組み合わされる。
前輪駆動となる2.0のエンジンには変更はない。A3ですら2.0L FSIユニットを積んでいることを考えると、技術による前進を掲げるプレミアムブランドの一番の主力として、これは物足りないと言わざるを得ない。マルチトロニックと呼ばれるCVTが組み合わされるのも従来どおり。ただし、そのシーケンシャルモードは6速から7速に段数が増やされている。
ハードウエアに関するもうひとつのトピックは、サスペンションの進化である。形式こそフロント:4リンク、リア:トラペゾイダルで変わらないが、その内容はより一層の洗練が進められている。
まずフロント側ではアッパーリンクとダンパー頂部を支えるマウンティングブラケット、並びにステアリングトラックロッドにS4のパーツが流用され、サブフレームも一新された。一方リア側は、中空アルミ製のトラペゾイダルリンクやホイールベアリングハウジングを、やはりS4から流用。ダンパーアッパーマウントやトラペゾイダルリンクのベアリングには、容量の大きなA6のものが使われているという。
さらに、標準装備のESPは最新のESP8に進化した。これは雨天走行時、自動的に一定の間隔でブレーキキャリパーをディスクローターに接触させて、ディスクとパッドの表面を乾燥させる機能が備わっているのが特徴である。
こうした外装、そしてメカニズムの磨き上げの一方で、インテリアにはほとんど変更は施されなかった。見てすぐにわかるのは、ステアリングホイールがセンターパッドにシングルフレームグリルのモチーフをかたどった新デザインのものとされ、トリム類やデコラティブパネルの素材が変更されたこと程度。リアシートも、若干だが形状が変わっている。だが、それで不満かと言えば、そんなことはまったくない。要するにクオリティ、デザインともに敢えて変える必要はなかったということだ。
快適な乗り心地と楽しい走りの両立
さて、概要の紹介だけでかなり紙幅を費やしてしまったが、やはり肝心なのは走りっぷりである。今回、沖縄にて行われたプレス向け試乗会には、やや遅れてのデリバリーとなる3.2FSIクワトロ以外の各モデルが用意されており、同時に新しくなったS4ともども、じっくりその真価を確かめることができた。
まず乗ったのはセダン2.0のSEパッケージ付きである。書き忘れていたが、従来のSEやSラインは、全車で選べるパッケージオプションとされている。
すぐに気付くのは、低速域でのステアリングの操舵力が軽くなっていることだ。これは2.0にオプション、他は標準装備となる新採用の速度感応式パワーステアリング、サーボトロニックの効果。最近のアウディに共通の傾向である。最初は軽過ぎるとも感じるが、フィールは損なわれていないため慣れれば快適に操作できる。
ハッキリ進化を体感できるのは乗り心地だ。先代A4も末期にはリファインが進み、快適性はずいぶん高まっていたが、新型はそれに輪をかけてフラット感が高まり、当たりもしなやかになっている。速度を上げていった時の上下に煽られるような動きも、ほぼ消え去った。あとほんの少し、ダンピングを効かせてくれれば完璧だと思う。
やはり徐々に改善されていたパワートレーン、特にCVTの制御も、もはや人間の意思に背かないリニアなものとなっている。シーケンシャルモードの7段化は、全体のギア比を変えたわけではなく、7-6速を従来の6-5速と等しくして、5速以下をよりクロスさせている。時にスポーティに走らせたい向きには、より楽しめることだろう。
気になったのはアイドリングから低速走行時のエンジンもしくは排気系辺りからと思しき低級音である。そのカラカラという音は、400万円の代価を求めるプレミアムカーにはおよそ相応しくない。とは言え、問題点はそれぐらい。FSIを採用しなかったのはイメージとしては不満だが、実はこの2.0は、先代から価格据え置きなのだ。不満を言ってはいけないのかもしれない。
続いて2.0TFSIクワトロのSラインパッケージを試した。新しい2.0Lターボエンジンは、直噴のメリットで圧縮比を自然吸気2.0Lと同じ10.3まで高めている。おかげで発進時などブーストがかかる前でも、もたつきはほとんど感じられない。ただし、その領域ではボーッというこもり気味の排気音が耳につく。それが解消されるのは1800rpmを超えた辺りから。6速ならちょうど100km/hに達しようかという頃だ。アウディは全体にその傾向が強いが、重視しているのは、ある程度以上の速度域なのだろう。そういう意味では実にドイツ車らしいと言えるかもしれない。
A3スポーツバックでは、中速での図太いトルク感と、その先での痛快な伸びの良さを堪能できたTFSIユニットだが、A4との組み合わせでは、もう少し全体に穏やかな印象だ。車重差が150kg以上あり、DSGではなくATだということを考えれば妥当なところか。それでも、S4と同じようにシフトダウン時のブリッピング機能が備わった6速ATを駆使して走らせてやれば、これも十分活発な走りを楽しめる。総じて、高い人気を誇っていた先代1.8Tクワトロより、実力が全方位に高まっているのは確かである。
20mmのローダウンを実現するスポーツサスペンションと17インチのタイヤ&ホイールを組み合わせたSラインのシャシは、まだ多少ワンダリング傾向が残るが、出たての頃に顕著だった不快な突き上げ感はもはやなくなった。その格好良さに惹かれて選んでも後悔はないだろう。
そのほか、アバント2.0にも乗ったが、基本的な印象はセダンと変わらず。つまり、まとまりは相当ハイレベルと言える。
また、内容にはほぼ変更のないS4は、相変わらず抜群に気持ちの良い走りっぷりを披露してくれた。硬めではあるがしっかりダンピングの効いた足まわりは、Sラインより、あるいは2.0の普通のサスペンションよりも快適と言っていいかもしれない。僕にとっては、このS4こそがベストA4、いやベストアウディである。
フルモデルチェンジと言うべきなのかはともかくとして、新型A4が全身その資質に大いに磨きをかけて、高い完成度を持った1台として仕上げられていることは、今回の試乗でしかと確認できた。そうなると新型A4の成否は、そのエクステリアデザインが受け入れられるか否か、そしてライバルの動向にかかっていると言えそうだ。
そのうちデザインに関しては、シングルフレームグリルはいいとして、そのヘッドライト形状に馴染めず最初は反対派だった僕も、2日間一緒に過ごすうちに結構慣れてしまったことは伝えておく。さらに時間が経つと、やはり先代が古臭く見えるようになるのかもしれない。ライバルの動向で気になるのは、言うまでもなく新型3シリーズであろう。僕はまだ試してはいないが、現行3シリーズだって、実力は今も十分通用するだけのものがあるのに、新型はあらゆる点で、その上を行っているというのがもっぱらの評判だ。そんな中でA4がどこまで戦えるのかはとても興味深い。
率直に言って、その成否を占うのは困難だが、現在、絶好調のアウディには、間違いなく追い風が吹いている。果して入魂の新型A4によって、その勢いにさらなる弾みをつけることができるのか。市場の反応が、とても楽しみな1台だ。(文:島下泰久/Motor Magazine 2005年5月号より)
アウディ A4 2.0 TFSI クワトロ(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4585×1770×1430mm
●ホイールベース:2645mm
●重量:1630kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:200ps/5100-6000rpm
●最大トルク:280Nm/1800-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:470万円(2005年当時)
アウディ A4 アバント 2.0(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4585×1770×1455mm
●ホイールベース:2645mm
●重量:1520kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:130ps/5700 rpm
●最大トルク:195Nm/3300rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●車両価格:406万円(2005年当時)
アウディ S4(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4585×1780×1410mm
●ホイールベース:2645mm
●重量:1750kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:344ps/7000rpm
●最大トルク:410Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:808万円(2005年当時)