2005年のフランクフルトモーターショーでお披露目された2代目ジャガーXKは、激戦のラグジュアリースポーツセグメント市場でどのような存在感を示していたのか。デビュー直後に、生産が行われるイギリス・バーミンガムのキャッスル・ブロムウィッチ工場で行われたテクニカルセミナーの模様を振り返ってみよう。(以下の記事は、Motor Magazine 2005年12月号より)

スタイリングに新しい方向性の模索が感じられる

ジャガーXKが属するラグジュアリースポーツセグメント市場は、ここ数年、世界トータル10万台規模で推移している。この限られたパイを、メルセデス・ベンツSLやBMW6シリーズなどと奪い合うのだからジャガーも気合いが入る。

その結果、新型XKには数々の新技術が投入されることになった。まず驚かされたのは、コンバーチブルの開発が先行したと告げられたことであった。フランクフルトで発表されたのはクーペのみで、コンバーチブルの正式なお披露目は年明けのデトロイト。しかし、開発はコンバーチブルからスタートしたというのだ。

ただ、オープンモデルの開発が先行したことは現在の開発では正攻法と言えよう。衝突安全や操縦安定性にかかわるボディ構造は、まず強度的に不利なコンバーチブルから決めるのが理に適っているし、デザインでもリアにルーフを収納するオープンの方が制約が大きく、これができればクーペ化は容易だからだ。

スタイリングに関しては、アストンマーティンのデザインも手掛けるイアン・カラム氏が直々のプレゼンテーションを行った。アストンマーティンのモデルはタイト、対してジャガーXKは曲線美と、明確な違いを持たせたと力説する。

確かに新型XKのボディラインは魅力的だ。ただ、前後ライトの切れ長な造形が浮き立っていて、先代の「ひたすら流麗なクーペ」からアクの強さも目立って来たように思う。そこに「新しい方向性の模索」は感じられるものの、この変身ぶりをユーザーがどう評価するか興味深い。

ちなみに、コンバーチブルの屋根は流行りの折畳み式ハードトップではなく、シンサレートなどの先進素材を用いた3層構造のソフトトップだ。その理由は、まず伝統に則ったこと、そしてハードトップはデザイン上の制約が大きく、XKの目指す流麗なボディライン実現のための選択との説明だった。

インテリアも変わった。ナビ機能も備える7インチ液晶を高い位置に設定した結果「ホースカラー」と呼ばれたジャガー特有のセンターコンソールではなくオーソドックスなT字型となったのだ。6速ATのシフトも従来のJ型から逆L字型に変更。このように新型XKはジャガーの決まりごとを、ことごとく覆している。

インテリアトリムは木目と本革も設定されるが、並行して金属パネルも用意される。ジャガーがウッドパネル以外のマテリアルを標準のクーペに採用してきたことも、新しい方向性の模索を象徴する部分だと僕は思う。英国趣味も良いが、流行に敏感な国際性も身に着けたいというわけなのだろう。

画像: 2代目ジャガーXKのデザインについて、デザイナーのイアン・カラム氏が説明してくれた。アストンマーティンのデザインも手がける氏は「2つの世界的なスポーツカーブランドのデザインを同時に手掛けるのは至福」と語った。

2代目ジャガーXKのデザインについて、デザイナーのイアン・カラム氏が説明してくれた。アストンマーティンのデザインも手がける氏は「2つの世界的なスポーツカーブランドのデザインを同時に手掛けるのは至福」と語った。

注目はフルアルミボディの採用、軽量ボディでライバルに対抗

メカニズムに話を移そう。新型XKの技術的なトピックは、やはりXJに続きフルアルミボディを採用したことにある。熱硬化式の接着材と部材の厚みに応じた13種類のリベット、さらにボルトやメカニカルファスナーによって組み上げられるアルミモノコックは、XJよりもプレス成型部品を減らし、キャストと押し出し材の採用を拡大することで更なる軽量化と高剛性化を達成した。

ボディの単体重量は345kgに過ぎず、これはSLの425kg、6シリーズの420kgに対して80kg近く軽い。

搭載されるエンジンは300psの4.2L V8。いずれスーパーチャージャーなどで強化されたXKRも追加されるはずだが、当面はボディの軽量さを活かしてライバルと伍した走りを実現する戦法だ。さらに、軽量は環境性能にも有利で、新型XKはCO2の発生量も旧型に対し8%の削減を実現しているという。

トランスミッションは前記した通り6速ATだが、ステアリングパドルでマニュアル操作が可能(左パドルがダウン/右がアップシフト)となるジャガーシーケンシャルシフトが採用された。変速時間の短縮とエンジン制御の最適化によりスムーズでレスポンスの良いDSGにも劣らないシフトフィールを実現したそうだから、その仕上がりが楽しみだ。

これ以外にも新型XKは新しい操作性に挑んだ部分が多い。エンジンスタートはついにキーと訣別し、センターコンソールのプッシュボタンで行うキーレスシステムを導入しているし、7インチ液晶はタッチパネル機能を備え、多くの機能をここで操作させる。

ドイツ勢はBMWのiDriveのようにスイッチ類の整理に独特のアプローチを試みているが、ジャガーは日本人にとっては親しみやすいタッチパネル式を選んだわけだ。パネルレイアウトは基本操作アイコンを常に定位置に置くなど工夫が施されているし、13カ国の言語に対応するため、日本でもそのまま使えるという配慮も嬉しい。

安全性に関してもXKには大きなニュースがある。万が一、歩行者との接触があった場合、ボンネットが瞬時に130mmポップアップし衝撃を和らげるペデストリアン・プロテクションだ。

同様の装備は日本ではホンダが技術発表を行っているが、実用化はこれが世界初。エンジンとフードの間を70mm確保しなければならない安全規定は、低いボンネットラインを実現したいスポーツカーメーカーにとって大きな問題である。この点にジャガーがいち早く解決策を提示したのはさすがだ。

このように、新型XKには数々の新しい技術が盛り込まれている。これらはいずれ他のモデルにも拡大されていくはず。その意味でも極めて興味深いニューモデルと言えよう。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2005年12月号より)

画像: フルアルミボディを採用したことが新型ジャガーXKの大きな特徴。ボディの単体重量はわずか345kg。

フルアルミボディを採用したことが新型ジャガーXKの大きな特徴。ボディの単体重量はわずか345kg。

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