ロータス独自のチューニングも
今でこそ、イギリスの名門ライトウエイトスポーツカーブランド「ロータス」として知られるロータス・カーズ社だが、創業当初はレーシングマシンメーカーであった。1940年代後半、オースチン7のシャシを新規製作と言えるほどの大幅改造を施して初のレーシングマシン、マーク1を完成させた。しかし、オースチン7の純正エンジンはレースで勝つには低出力だったため、フォード製エンジンに換装する。
この開発手法、シャシを独自制作して他社製エンジンを搭載するやり方は、現在のロータスモデルにも引き継がれているのだ。
過去、経営状態の厳しかったロータス・カーズ社は何度か大株主も変わっている。創業者のコーリン・チャップマンが1982年(享年54)に逝去した後、それまでの独自経営から1986年にはGM(ゼネラルモーターズ)に売却された。余談ではあるが、同じくGM傘下だったいすゞ自動車とのコラボによって、「ハンドリング・バイ・ロータス」仕様がいくつかのモデルに設定された。ロータスがシャシチューニングのみを担当したことも、創業時のエピソードを知ればうなづける。
その後も、1993年には当時ブガッティのオーナーだったイタリア人実業家のロマーノ・アルティオーリに、1996年にはマレーシアのプロトンに売却。そして2017年にはボルボ・カーズの買収で知られる中国の浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)がロータス・カーズ社の株51%を取得し、事実上のオーナーとなっている。
スポーツカーが売れる時代ではなくなり、また経営の不安定さも大きく影響してこの30年で4回も大株主が変わり、その度に経営方針の変更や商品ラインアップの整理も行われた。ただ、現オーナーの浙江吉利控股集団はブランドの独自性を尊重した経営方針で、エリーゼ、エキシージ、エヴォーラという小・中・大のスポーツカーラインアップを維持している。
そして、そのいずれのスポーツカーにもトヨタ製エンジンが搭載されている。これは、ボルボがグループ企業となったいまも続いているのだが、なぜなのか。
そもそもトヨタとロータス・カーズ社の関係は長く、1981年に登場した2代目セリカXX(A60型)のサスペンション開発をトヨタが依頼したことにはじまる。初代のグランドツアラー的な性格とは打って変わり、スポーツカー然とした硬めの乗り心地としてスポーツ性を全面的にアピール。その象徴となったのがロータス・カーズ創業者のコーリン・チャップマンで、2代目セリカXXのテレビCMにも起用されていた。
1982年初頭には、トヨタと知的財産と応用専門知識の交換に関する契約を結んでいる。これにより、1983年発売のロータス エクセルには、トヨタ製5速MTやA60型セリカXXのドアハンドルやホイールなどのコンポ—ネントが採用され、低コスト化にひと役買っていたのだ。
本題のエンジンについてだが、トヨタから供給を受けるようになったのは2003年からのことで、それ以前はローバー社によるエンジン供給を受けていた。エンジンサプライヤーを変更した最大の理由は、ローバー社の経営破綻によりエンジン生産もストップしたことだ。
また、エリーゼの2005年モデルをアメリカで発売するにあたり、2004年当時の排出ガス規制に対応させるために、ロータス・カーズ社と提携関係にあるいくつかの選択肢の中からトヨタ製エンジンを採用したワケだ。
ロータスグループはGM傘下の時代に各ブランドの車種向けにエンジンを設計・チューニングした経験を持ち、排出ガス規制に対応する技術力を持ち合わせているはず。それでも自社設計ではなくトヨタ製を選択したのは、長年の付き合いや排出ガス規制の問題のほかにもいくつかある。
2020年現在、ロータス・カーズ社に供給されるエンジンは1.8L直4 DOHCの2ZR-FEと、3.5L V6 DOHCの2GR-FEだ。どちらもVVT-i(可変バルブタイミング機構)を装備し、スポーツモデルへの搭載例もある。そして最大の共通点はどちらもFF用エンジンという点だ。最新のロータス3モデルはすべてMR。つまり約50年も昔にフィアットがX1/9の開発で実践した、FF用エンジンとトランスミッションを180度回転させて車体中央部に搭載すればMR車を低コストで開発できるという手法を、ロータス・カーズ社は用いているのだ。
このように、ロータスがエンジンサプライヤーとしてトヨタを選んだ理由は、エンジンの安定供給につながる企業としての安定性、2004年当時の提携エンジンメーカーの中でおそらく唯一アメリカの排出ガス規制をクリアできるエンジンを有していたこと、2代目A60型セリカXX以来の長い付き合いであること、ロータスが求めるサイズのFF用エンジンを製造していることが挙げられるだろう。(文:猪俣義久)