2005年のフランクフルトモーターショーで公開されたゴルフGTは、次世代のパワーユニットのあり方を大きく変える画期的なモデルとして世界的に大きな注目を集めた。「スポーティかつ高効率」であるためにはどうすればいいのか。その解答が、直噴ツインチャージャーTSIであり、直噴ディーゼルターボTDIだった。そしてその反響のあまりの大きさに、フォルクスワーゲンでは2006年春あらためて試乗会とワークショップを行っている。ここではその際のゴルフGT 1.4TSIの試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年6月号より、タイトル写真はゴルフGTに搭載されるガソリンエンジン「1.4TSIツインチャージャー」)

スーパーチャージャーとターボの2つの過給器を装備

まだ寒さ厳しい3月中旬のドイツ・ウォルフスブルグを訪れたのは、フォルクスワーゲンが開催したエンジンワークショップに参加するためである。最新鋭エンジンを搭載したモデルの試乗、そして技術内容についてのプレゼンテーションが行われ、そのパワートレーン戦略を、まさに頭と身体で知ることができたこのイベント。一番の目玉は、やはりゴルフGTだろう。

言うまでもないことだが、これは現在、日本仕様のゴルフにラインアップされているGTとはまったくの別物である。GTIと共通の逆台形グリルをボディ同色仕上げとして、バンパー開口部も大きくしたフロントマスクや、車高15mmダウンの専用サスペンションに組み合わされた17インチホイールといった外観は、このモデルがGTIなどと同じスポーツ系列にあることを控えめに主張する。しかし注目すべきは、むしろ中味の方、その心臓である。

ゴルフGTは、実は2種類のエンジンを搭載する。ひとつは直噴ガソリンツインチャージャーのTSI、そしてもうひとつが直噴ディーゼルターボのTDIだ。おそらく、特に多くの人が注目しているのは、昨年のフランクフルトショーで初登場したTSIユニットではないだろうか。確かにこのエンジンの個性は、とても際立っている。

その構成を簡単に説明すると、まずツインチャージャーとは、機械式スーパーチャージャーとターボチャージャーの2つの過給器を装備していることを示している。

興味深いのは、それらが組み合わされるエンジン本体が、フォルクスワーゲン社内ではスモールブロックと呼ばれているEA711型で、1.4Lの小排気量とされていることだ。正確な排気量は1390cc。ボア76.5×ストローク75.6mmのショートストローク型で、燃料噴射はガソリン直噴のFSIを採用する。圧縮比は10.0と、ゴルフGTIの2.0T-FSIユニットの10.3よりは低いとは言え、過給ユニットとしては高めの設定である。これは筒内にガソリンを直接吹き付けることによって、気化熱で燃焼温度を下げられ、ノッキング限界を高められるという直噴のメリットのおかげだ。

排気量が小さくなれば基本的に燃費は向上するが、一方でパワーは期待できない。そこで登場するのがターボチャージャーである。しかし、1.4Lという小排気量では、闇雲にパワーを求めてタービンを大きくすると、低回転時には過給効果が得られず、いわゆるターボラグが発生してしまう可能性が高い。

ならばと組み合わされたのが、機械式のスーパーチャージャーだ。低回転域では、クランクシャフトから5倍速で駆動される、このスーパーチャージャーがシリンダー内に強制的に空気を送り込み、アクセル操作に対してタイムラグなくトルクを発生させる。

ただしクランクシャフトから直接駆動されているだけに、スーパーチャージャーはエンジン回転が高まるにつれて抵抗になって燃費を悪化させるため、状況によるが最高でも3500rpmまでにはスーパーチャージャーはクラッチが切られてフリーに。後はターボチャージャーのみで過給が行われる。最大過給圧は1.5barと高めだ。

こうして得られたスペックは、最高出力170ps/6000rpm、最大トルク240Nm/1750-4500rpm。特にトルクの充実ぶりは目覚ましいものがある。それでいて燃費は7.2L/100kmという小食ぶりなのだ。ちなみにトゥーランには、140ps・220Nm仕様のTSIユニットが採用されている。こちらの燃費は車重が嵩むせいもあって13.5L/100kmに留まる。いずれにせよ、高出力と低燃費の本当の意味での両立こそが、TSIユニットの狙いなのである。

画像: 2005年のフランクフルト・モーターショーで公開され、大きな話題を呼んだフォルクスワーゲン ゴルフGT 1.4TSI。直噴エンジン+ツインチャージャーを搭載する。

2005年のフランクフルト・モーターショーで公開され、大きな話題を呼んだフォルクスワーゲン ゴルフGT 1.4TSI。直噴エンジン+ツインチャージャーを搭載する。

ゴルフのキャラクターに合ったフィーリング

6速MTと組み合わされた試乗車で走り出すと、フィーリングはまるで2Lオーバーの自然吸気エンジンのように感じられた。チャージラグはほとんど感じられずトルクも充実していて、過給を意識させるのは発進時のトルクの立ち上がりの鋭さや、アクセルを踏み直した時のトルクのツキの良さなど、ポジティブな面ばかりでだ。

ちなみに最高出力は、ボーラや先代パサートに積まれていた2.3L V5ユニットと肩を並べる。最高速度は220km/h。参考までに2.0FSI+6速ATは205km/hである。それでいて、燃費は2.3L V5より約19%優れているというから、つまり全方位で性能が高まっているわけだ。

無論、絶対的なトルク値で言えば、GTIの2.0T-FSIには及ばない。しかし、こちらはショートストロークの小排気量ということで、吹け上がりの軽さでは逆に上回る。何しろ踏み込んでいくと、GTIより500rpm高い7000rpmからのレッドゾーンをさらに超えて、7500rpm近くまで一気に到達してしまうほどなのだ。

確かに高回転域でパワーの伸びが一段と高まったりといった演出めいた部分はなく、パワーはあくまで回転数に応じてリニアにもたらされるのだが、徹頭徹尾フラットトルクな印象のGTIに較べれば、回す意味を感じられるというだけでも、走らせる楽しさは大きい。そう、むしろゴルフのスポーティエンジンとしては、絶対的な出力云々は置いておくとして、TSIの方がそれらしいとすら感じられたのである。

唯一残念なのは、アクセルオフ時の回転落ちが鈍いことだが、それでもこの小気味良さ、そして小排気量でこれを実現していることから来るどこか知的なムードは、スポーティだ何だという話は抜きにしても、ゴルフというクルマのキャラクターにはよく合っているように思える。突然トルクが高まるようなことのない特性からすれば、ほどなくして加わるはずのDSGとのマッチングの良さも期待していいはずだ。

ちなみにトゥーラン用の140ps仕様TSIユニットは、もっと徹底的にフラットトルク化が図られている。回して楽しいという性格ではもはやないが、トゥーランのように人や荷物をたくさん運ぶ可能性があるクルマには、おあつらえ向きの設定であることは間違いない。

画像: GTのエンブレムと2本出しマフラーのほかは、スタンダードなゴルフと変わらない。

GTのエンブレムと2本出しマフラーのほかは、スタンダードなゴルフと変わらない。

ディーゼルに負けない低速域での大トルク

ターボチャージャーとスーパーチャージャーのふたつの過給器を用いるエンジンと言えば、思い出すのはかつてのランチア037ラリーや日産マーチ・スーパーターボなどハイパワー指向のエンジンばかり。燃費については二の次、三の次という印象すらある。

ところがTSIユニットは、それを見事、パワーと燃費の両立に活かしてみせた。そういう意味でも、非常に画期的なエンジンであることは間違いない。

しかし、強調しておかなければいけないのは、TSIにはもうひとつ、独特のパワーフィールという際立った特徴があるということである。先に触れた立ち上がりの鋭さやアクセルのツキの良さは、実は今まさにディーゼルエンジンがセールスポイントとしている要素。ディーゼル乗用車は、何もその燃費を一番の理由に売れているというわけではなく、ターボチャージャーの特性がもたらした低速域での分厚く、踏めば首が仰け反るような加速をもたらす大トルクに魅せられているという部分もとても大きい。

ならばガソリンでもそれをやってやろう、ガソリンでもディーゼルに負けない乗って面白いエンジンを生み出そうというのが、このエンジンの一番の狙いなのだ。

燃費の敵とすら思われていた感のある過給器だが、それもダウンサイジングと組み合わせてうまく使えば、逆に素晴らしい結果をもたらす。しかも、そこに大トルクという楽しみまで加わるのだから、今後はこの小排気量エンジンとターボチャージャーの組み合わせは、BMWでも既に登場が噂されている通り、再びの隆盛を見せるかもしれない。

TSIはそういう意味で、間違いなくエポックメイキングなエンジンなのだ。(文:島下泰久/Motor Magazine 2006年6月号より)

ヒットの法則

フォルクスワーゲン ゴルフGT 1.4TSI 2ドア 主要諸元

●全長×全幅×全高:4204×1759×1485mm
●ホイールベース:2578mm
●車両重量:1271kg
●エンジン:直4DOHCツインチャージャー
●排気量:1390cc
●最高出力:170ps/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1750-4500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●最高速:220km/h
●0-100km/h加速:7.9秒
※欧州仕様

This article is a sponsored article by
''.