静かでスムーズ、燃費がよく、しかもパワフル
レクサスGS450hは、とにもかくにもパワートレーンの印象が強烈なクルマである。アクセルを踏み込むと、まだエンジンはかからず、電気モーターによって滑らかかつ静粛に走り出す。さらに加速していくとエンジンが始動するが、この繋がりもきわめてスムーズだ。
しかしなにより鮮烈なのは、さらに速度を上げていった時である。右足に力を入れると、まるでその動きに直結しているかのように、瞬間的に車速がグッと伸びる。しかも、それはスロットル設定の小細工などによるものとは違って、素早いけれど、リニアリティは抜群だ。
そして、ハイライトはその先。そのまま踏み込んでいくと、サウンドを荒げるでもなく滑らかさを失うでもなく、まさに表情ひとつ変えないままに、車速だけが一直線に、しかも猛烈な勢いで高まっていくのである。
0→100km/h加速は5秒台後半だから、もちろん実際に加速力は強烈なのだが、それ以上に効いているのは、変速による加速の段付きが事実上皆無なこと。実際はGS450hでは、モーターに2段変速式のリダクション機能を備えることで低高速でギアを切り替えており、音などでそれを意識はできるのだが、その時も加速感には変化はない。表情ひとつ変えないというのは、まさにそういうことである。
そんな異次元の加速感を何度も何度も試して、堪能して、感心した挙げ句に待っていた衝撃が燃費だ。テストということで高速道路を中心に安全に留意しつつも結構踏んだり離したりを繰り返したのに、区間燃費は11km/Lに達しようとしていたのである。
エネルギーモニターを見ると、軽い減速でも効率よく回生していることが窺える。ハイブリッド車は高速燃費がよくないという欧州メーカーの理屈は、そろそろ通用しなくなってきたのではないだろうか。
静かで、スムーズで、燃費がよくて、しかも際立ってパワフル。誰もが夢に見たパワートレーンの理想型が、まさにそこにある。そんな風に思えるほどに、その完成度は突出していると感じた。
一方で、ドライビングフィールに関しては注文をつけたい部分がなくはない。中でも真っ先に改善を求めたいのは、路面感覚をちっとも伝えてくれないステアリングフィールである。速い。けれど車重はあるから、操舵が早過ぎたり遅過ぎたりすると、それこそ交差点でだって簡単にラインを外しがちだ。だからこそ掌でクルマを感じたいのに、それが難しい。直進時も、もっと動力性能に見合ったどっしりとした座り感が欲しいところ。同じVGRS付きでも、GS430はこれほどではないのだが。
ランフラットタイヤ装着車の乗り味も、依然として満足には至らない。特に、うねった路面でボディ全体があおられて落ち着かないのは要改善だ。高速道路のカーブ区間で、方向の定まらないステアリングを微調整しながら身体が上下に揺さぶられている瞬間には、加速中に感じた上質な走りの印象など吹き飛んでしまう。
GS430に対して190kgも増えた車重は、瞬発力に優れたハイブリッドシステムの特性のおかげで、動力性能にはなんら影響を及ぼしていないと言っていい。しかし、やはりシャシ性能の面では、その弊害は無視できないということなのか。あるいは思い描く走りのイメージの問題なのか、それはわからないが、現状で言えばパワーフィールの素晴らしさに、フットワークはほんの少し追いついていないように思えた。
厳しい書き方をしたが、それもこのハイブリッドシステムの感動に、さらなる期待を込めてのことと解釈してもらいたい。GS430に対してたったの50万円高という価格なら、僕だって迷わずGS450hを推したいのだ。だからこそパワートレーンだけではなくシャシ性能でも、メルセデスやBMWから乗り換えたとしても唸ってしまうようなものを、弛まず目指してほしいのである。(文:島下泰久/Motor Magazine 2006年6月号より)
レクサスGS450h(2006年) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4830×1820×1425mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:1890kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:3456cc
●最高出力:296ps/6400rpm
●最大トルク:368Nm/4800rpm
●モーター最高出力:200ps
●モーター最大トルク:275Nm
●システム最高出力:345ps
●トランスミッション:自動無段変速機
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:5.2秒
●車両価格:680万円(2006年当時)