ルーフ(屋根)を持たないオープンカーはその見た目から、軽快な走りを楽しめると思ってしまいがち。オープンエアによる爽快感に疑問の余地はないが、実はクーペと比較して軽い車重と軽快な走りを望める車種は少なく、オープンボディはクローズドボディより重い傾向にある。これはどうしてなのか。
オープンエアの開放感は何ものにも代えがたいが
マツダ ロードスターやBMW Z4のようにオープン専用ボディとして設計されている車種はともかく、クローズドボディとオープンボディの両方をラインアップする車種の場合、オープンボディの方が重い傾向にある。
一般的なイメージとして、ルーフがない分オープンボディの方が軽量に仕上がり走行性能も向上するように思えなくもない。しかし「2ドアをオープン化」したモデルの走りの難しさを国産車メーカーは1980年代に痛いほど経験しているはずだ。オープン化により低下したボディ剛性を補強するため車体各部へ補強材を追加したが、ビビり音や振動、コーナリング時のボディのよれ感などを消すことはできなかった。
しかし、1989年に誕生したユーノス ロードスター(現・マツダ ロードスターの初代モデル)は、オープン専用ボディであったためか、先述ようなボディ由来の騒音や振動は感じられなかった。ルーフがないという意味で外観は同じに見えるが、「クローズドボディベースのオープンボディ」と「オープン専用ボディ」でどこに違いがあるのだろう。
ボディ剛性やキャビン保護、装備充実化など重量増の要因は多い
クルマのボディ剛性を語る上でルーフは重要な構造物だ。クローズドボディ構造を簡単にいうと、フロアとルーフの大型の金属板をピラー(一般的に4〜8本)でつなげ支えている。この状態なら、曲げやねじりに強いことは想像に難くない。一方、ルーフのないオープンボディ構造は、フロントガラスを支える2本のAピラーとフロアの金属板でボディ剛性を出している。
既存のクローズドカーをオープン化すると、ねじり剛性と曲げ剛性に低下が見られ、「たわみ」によってボディが曲がるような感覚すら覚える。これを防ぐために、フロアやアンダーボディにルーフ分の剛性を追加するしかなく、具体的にブレース材などの補強材が採用される。
補強材の重量は、ルーフまわりをカットして得られた減量分よりも重い。BMW2シリーズを例に挙げると、220iクーペ Mスポーツの車両重量は1490kgだが、220iカブリオレ Mスポーツは1650kgにも達する。パワーユニットに性能差はないので、160kg重いカブリオレがクーペより軽快な走りを示すことはなさそうだ。
クローズドボディのピラーには、ルーフを支える以外に側面からの衝撃をルーフに逃がしたりキャビンを保護する役割もある。オープンボディではBピラー・Cピラーを撤去する車種も多く、側面からの衝撃をフロアパネルに逃がすため、フロアの剛性をますます向上させる必要がある。またキャビン保護は、ドアの下に位置するサイドシルにも分担される。そのためオープンボディのサイドシルは大幅に強化され、これも重量がかさむ一因になる。
クルマのルーフは風雨を避けるだけでなく、ボディ剛性や衝撃吸収の役割を担う重要な保安部品だ。そのためオープン化にあたっては、ボディ剛性強化と安全性維持の工夫を凝らしたアンダーボディを製造する必要があり、クローズドボディより重量が重くなりやすい。
オープンボディがクローズドボディより重くなる一因は、装備にもある。オープンカーには、マツダ ロードスターのようにスポーティなイメージだけでなく、天皇陛下の即位パレードで注目を浴びたトヨタ センチュリーベースのオープンカーのように、エレガントなイメージもある。
その点、前述のBMW 220iカブリオレはエレガント志向のプレミアムなオープンカーだ。そのため装備も豪華で、フルオートマチックソフトトップやトランクへのアクセスを簡単にするコンフォートローディング機構、乗員保護性能を高めるロールオーバープロテクションシステムを搭載する。これら装備群を電動で駆動させるユニットがカブリオレに搭載され重量増になっている。(文:猪俣義久)