とびきり硬派なコンパクトスポーツとして開発
「MINIのなかでもJCWは特別。BMWで言えばMモデルに匹敵する存在です」
2018年、ドイツで行われたMINIJCWクロスオーバーの国際試乗会に参加した私は、そこでシャシエンジニアのウルリッヒ・リューヘ氏がそう語るのを聞いた。彼の言葉に間違いはない。MINI JCWクラブマンは、生半可な気持ちでは相対することのできない、とびきり硬派なコンパクトスポーツである。
そのキャラクターは、乗り始めればすぐにわかる。スプリングとダンパーを固めているため、路面の凹凸が正直に伝わってくるし、ボディが上下する周期もかなり短い。ボディ剛性が十分に高く、おまけに減衰率は高くてもストロークの初期からしっかり機能してくれるダンパーのおかげで荒れた印象は薄いけれど、この乗り心地に拒否反応を示すドライバーがいたとしても不思議ではない。
しかし、だからこそこの味つけを熱烈に愛するドライバーがいることも容易に想像できる。引き締められた乗り心地は、ドライバーの操作が遅れることなくクルマの挙動に反映されることを意味する。音楽でいえばテンポが恐ろしく速いのだ。そうした小気味いいドライビングを心底楽しめるアクティブ志向のドライバーにとって、MINI JCWほど痛快な乗り物も滅多にないだろう。
とはいえ、2001年にBMW傘下に加わったMINIも、現行の3代目となってずいぶん味付けが変わってきた。従来に比べるとサスペンションのストローク感が増えたおかげでMINI特有のゴーカートフィーリングが弱まり、誤解を恐れずにいえばちょっと普通のクルマに近づいてきたのだ。
しかし、MINIの何たるかをしっかり理解していたエンジニアたちは、ブレーキ トルク ベクタリングを多用することで素早いアジリティを演出。長めのサスペンションストロークによる操舵レスポンスの遅れを、カバーしようとしたのだ。
弾けるようなパワーフィール。ハンドリングもシャープな味付け
ただし、率直にいってそのセッティングは好みが分かれるところ。ブレーキトルク ベクタリングのおかげで確かに操舵レスポンスの鋭さは維持できたが、感触がどこか人工的で、同じようにコーナリングしているつもりでも電子制御の影響でブレーキ トルク ベクタリングがまれに効かない印象もあったのだ。
実は、前述のリューヘ氏もこの味つけに違和感を覚えていたという。聞けば、3年ほど前に現職に就いた彼は、3代目MINIが誕生した当時の開発に関わっていなかったという。
だが、今回のマイナーチェンジを任されることになって、それまでの方針を一転。ブレーキ トルク ベクタリングの効きを弱くするとともに、サスペンションのアライメントやスプリング/ダンパーを工夫してアジリティを確保した。そして最後の仕上げにトルセン式LSDをフロントに組み込んで、新型MINI JCWの優れたダイナミックパフォーマンスを完成させたのである。
そのため、前述のとおりそのハンドリングはかなりせわしない。それでもすべてが素直に反応するので操り甲斐があるし、恐くもない。これは意外にも弱アンダーを保つようにしつけられたステアリング特性によるところが大きいと思う。
306psの弾けるようなパワーを生み出してくれる2L直4エンジンは、この足まわりの味付けに照準をあわせてチューニングしたのではないかと思えるほどマッチングがいい。8速ATをパドルで操りながらコーナーを駆け抜けていけばJCWクラブマンとの深い一体感に包まれ、至福のひとときを過ごせるだろう。
全長4.3mほどのボディに広々としたキャビンとラゲッジスペースを用意した点は、MINIの伝統どおり。機敏な走り、愛くるしいスタイリングを含めて、そのスピリットは失われていないようだ。(文:大谷達也/最新ムック「Motor Magazine 輸入車年鑑 2020」より)
MINI ジョンクーパーワークス クラブマン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4275×1800×1470mm
●ホイールベース:2670mm
●車両重量:1600kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1998cc
●最高出力:306ps/5000rpm
●最大トルク:450Nm/1750-4500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●WLTCモード燃費:12.1km/L
●タイヤサイズ:225/40R18
●車両価格:569万円
■MINI クラブマン 車両価格(税込み)
ONE:335万円クーパー:391万円
クーパーS:435万円
クーパーS オール4:459万円
クーパーD:404万円
クーパーSD:448万円
ジョンクーパーワークス:569万円