アメリカブランドのイメージを前面に打ち出す
欧州車に興味を持っている人にとって「フォード」といえば、フィエスタ、フォーカス、モンデオ、そしてC-MAXなどといった、欧州マーケットで高い評価を受けているモデルたちをラインアップするブランドだと理解されている。だがそれは、あくまでもクルマに強い興味を持っている人にとっての話。日本で「フォード」といえば、GMやクライスラーと同じく、アメリカを代表するブランドだと考えている人々の方がまだまだ多いだろう。
かつてフォードには、「北米フォード」と「欧州フォード」という2つのディビジョンがあった。どちらも正真正銘の「フォード」であるが、それぞれの市場にふさわしいモデルをラインアップしてきたという歴史を備えている。現在では一つに統合されているが、ラインアップされているモデルを見ればわかるように「アメリカ志向のフォード車」と「欧州志向のフォード車」という2つの流れは明確に存在している。マスタングとフォーカスを見れば、その違いは理解できるだろう。
日本市場においてフォードは、かつてはアメリカ車としてのイメージで定評を得ていた。しかし、時代の流れもあってアメリカ車不振の時代を迎え、1980年代にマツダとの提携から誕生した日本製フォード車の登場もあってそのイメージは複雑化。ここ最近は、折からの欧州車人気の高まりもあって、フォーカスに象徴される「欧州車ブランドのフォード」というイメージを前面に打ち出してきた。しかし、そのような背景を備えているだけに、確固とした「フォード」ブランドのイメージ構築に成功した、とはいい難い状態であったのも事実だ。
ところが、「メイク エブリディ エキサイティング」という、心の高揚を覚える商品を提供し、それによってエキサイティングな日々を提供するというコアコンセプトのもとで、新型マスタング、新型エクスプローラーというモデルの導入を行った現在のフォードジャパンからは、自らのブランドイメージをハッキリとわかってもらいたいという強い意気込みを感じる。そしてその最新モデルが、このエクスプローラー・スポーツトラックXLTである。つまり現在のフォードジャパンは、「アメリカならではのフォード」という路線を強く押し出す方向へ舵を切った、という風にも理解できる。
アメリカでは2006年に登場した2世代目のエクスプローラー・スポーツトラック。実際に試乗してみて、正直言って本当に驚いた。これこそ目からウロコ、である。
1ナンバーのトラックということに? フォードのベストセラーピックアップトラック、F150をイメージさせるルックスに? ドアハンドルからベッドのトノカバーから、操作には力が必要なことに?
違う。何よりも、その驚くほどに滑らかで心地よい乗り味と、その大きさを感じさせない運転のしやすさに心底、感動したのだ。
その名の通り、このモデルのベースとなっているのは、エクスプローラー。同モデルは、騒音や振動の遮断にメリットが大きいラダーフレーム構造を採用しているが、スポーツトラックはそのラダーフレームを425mm延長して、ホイールベースを3315mmへと延伸。もちろん、延長に伴ってクロスメンバーを追加するなどフレームの強化も同時に実施されている。そのフレームに、前後2列のシートを備える5シーターのダブルキャビンを搭載。そして、後部のベッド(荷台のこと)にはしっかりと密閉できるロック機能付きハードトノカバー(脱着可能)を装備する。搭載エンジンは4L V6SOHC、左ハンドル仕様の4WDモデルのみである。
多用途性や機能性を象徴するベッドの素材には、耐腐食性と軽量化を実現するための複合素材SMC(シートモールディングコンパウンド)を使用。そのスペースは長さ1280×幅1415×高さ555mmで、最大積載量は250kgと十分なものである。
5速ATとの組み合わせから生まれる走りは十分にダイナミックで、そして洗練されていた。エクスプローラーよりも快適だと表現したいくらいである。「Truck」ではなく「Trac」という名を与えられたスポーツトラック。それは「トラック」という固定イメージを覆す内容を備えている。(文:香高和仁/Motor Magazine 2007年8月号より)
フォード エクスプローラー スポーツトラックXLT 主要諸元
●全長×全幅×全高:5370×1870×1840mm
●ホイールベース:3315mm
●車両重量:2230kg
●エンジン:V6SOHC
●排気量:4009cc
●最高出力:213ps/5100rpm
●最大トルク:344Nm/3700rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:398万円(2007年)