利便性の高いハイブリッドモデルが人気のドイツ
フォルクスワーゲンが発信している「20255年までに150万台のEVを生産する!」というコミットメントや、昨今のID.3発売開始、ID.4の発表など一連のEV攻勢を見ていると、「EV一本鎗!」のような印象を受ける。しかし年間の販売台数がグループで1000万台を超える大企業が一朝一夕にゼロエミッションのEVヘと方向転換するのは難しい。また消費者にとってもいきなりオンリー電気の壁は高い。
実はこれはフォルクスワーゲンにとっては想定内。彼らはもともと全方位的な戦略を持っており、33年前ほど前には「電気自動車」と並んで「内燃機関の改良」「ハイブリッド化(マイルド+フルハイブリッド)」「合成燃料」と、幅広い選択肢を研究していることを発表している。
とりわけ利便性の高いハイブリッドはコンパクトクラスではゴルフにGTE/eハイブリッド/eTSI、ミドルクラスではパサートにGTE、アッパークラスはアルテオンGTE、そしてSUVVではティグアンハイブリッドとトゥアレグR(PHEV)と広範囲をカバーしている。この戦略はエンドユーザーにも受け入れられており、ドイツの8月新車登録台数を見てもEVVが1万60766台なのに対してハイブリッドはその2倍半以上、4万6188台に達している。
街中で活発なeハイブリッド。乗り味は快適性を重視
そして今回はゴルフVIIIベースの3種類のハイブリッドが揃っての、テストイベントが企画された。ゴルフ系電動化モデルの中で、後述するeハイブリッドがスタンダード仕様だとすれば、GTEはGTIIに相当する。ワイドなハニカムフロントグリルの5灯式LEDライトに象徴されるように、ルックス的にもまさにGTIで、インテリアトリムもシートを始めとしてとてもスポーティだ。
搭載されるエンジンはeハイブリッドと同じチューンの1.4L TSIエンジン(150ps/250NM)と電気モーター(81kW/330Nm)のコンビネーション。搭載電池のグロスエネルギー容量が13.0kWhで、システム出力は180kW(245ps)/トルクは400Nmと、ICEのGTIとほぼ同等になっている。
その結果、0→100km/h加速は6.7秒となり、最高速度は225km/hに達している。 ドライバビリティはしかしGTIを期待するとちょっと当惑するだろう。市街地ではともかく、いざ郊外に出ると160kgのエクストラウエイトが文字どおり重くのしかかってくる。
とくにコーナーでは固められたシャシにもかかわらずハンドル操作に対する反応は鈍い。ただちょっと退屈なハイブリッドよりはスポーティで、EV走行はカタログ上ではあるので、そろそろGTIを卒業、環境重視へ向けて一歩踏み出したいと思う方々には最適だろう。
一方、eハイブリッドはGTEと同じパワートレーンを持ちつつ、システム出力は150kW、トルクは350Nmと、やや控えめだ。それでもEモードでのスタートはクイックで、町中では素早く流れをリードできる。
ハイブリッドモードでは、キックダウンも素早くTSIエンジンとの協調も問題ないが、全体の印象はやや快適性重視だった。操作系はゴルフVIIIとまったく同じで、一度慣れれば非常に使いやすい。また、乗り心地やハンドリングは重いバッテリーにもかかわらず勝るとも劣らないレベルだ。
最後に、48VのマイルドハイブリッドとなるeTSI。信号待ち、あるいはコースティング中のエンジン停止時からの快適な再スタートがもっとも特徴的な利点で、燃費は100km走行でおよそ0.4Lの節約が可能となる。
欧州ではまもなく内燃機関のスタンダードになる。同時にさらに14kW程度の電気モーターを加えて、駐車時のゼロエミッション走行やスタンバイ4WDとしても使えるので、将来的にはさらに普及の可能性が高まるだろう。(文:木村好宏)