クルマと一体になれるライブ感、エンジンは極上の滑らかさ
東京モーターショー以来久々に対面するM3セダン。乗り込む前に、その周囲をグルリと一周してみる。
その外観、最初は違和感のカタマリだったが、樹脂製となるフロントフェンダーの造形が巧みなせいか、その繋がりは自然だし、大型化されたリアバンパー、そこから顔を出す左右計4本出しのテールパイプ、そしてフェンダーぎりぎりのところ大地を踏みしめるワイドな18インチタイヤのおかげでリアエンドの迫力もケタ違い。運転席のドアを開ける頃には、期待感が高まってきているのを実感していた。
上質なレザー張りのシートに身体を滑り込ませ、いざ路上へ。ここでの第一印象は、あらゆる要素がとても滑らかに感じられるということだった。V型8気筒エンジンは至極軽やかに回り、サスペンションもしなやかに動く。ギアボックスの手応えもスイートだ。
M3クーペは、走行距離が進む前の段階では、全体に手触りが粗い印象があったものだが、このM3セダンは、まだ慣らしが終わったばかりという個体であるのにもかかわらず、すでにバリが取れているかのよう。
個体の差だろうか、それとも全体の生産の精度が上がったのだろうか。あるいは、これがM3セダンの乗り味なのかもしれない。そんなことを思いながら高速道路に入る。
エンジンは相変わらず極上の滑らかさだ。そうは言っても走行距離はまだ1000km台中盤だけに、少しでも馴染みを良くしておこうと高回転域を保って走らせても、バイブレーションや音が不快に感じさせることはない。そうしろと言われたら、7000rpmキープだって構わないほどである。
動力性能を純粋に比較すれば、0→100km/h加速はM3クーペの4.8秒に対して4.9秒となっているが、それとて体感できる差ではない。
乗り心地も、やはりクーペに較べて快適性を増している。試乗車はオプションのEDC(エレクトロニックダンパーコントロール)を装着していたが、これを3段階のうちの最強にしてあっても、サスペンションがじわりと縮み、スッと伸び上がって入力をいなす様が感じ取れる。段差などを越える際にはそれなりの硬さやバネ下の大きさ重さも感じられるが、収束はしなやかで、総じてなかなか上質な乗り味をもたらしてくれるのだ。
ワインディングロードへと持ち込んでも、その印象は変わらない。ただし、それは100%ポジティブな意味ばかりではない。以前にM3クーペで愉悦に浸ったのと同じコースで鞭を入れると、ターンイン初期のノーズの入りがわずかに鈍い。
と、ここで気付いた。M3クーペがカーボン製ルーフを用いるのに対して、セダンのルーフはスチール製なのだ。車重自体は10kgしか違わないが、高い位置の重量だけに違いが如実に出るのだろう。あるいはその快適性からすると、セッティング自体、方向が違うのかもしれない。
それにさえ馴染んでしまえば、あとはM3ならではの恍惚の世界が待っている。それこそ指1本分の操舵にもリニアにラインを選べる操舵感や、凄まじく速いだけでなく右足の動きに正確なエンジンのピックアップ、優れたタッチと制動力を有するブレーキが織りなす走りの世界には、クルマと一体になれるライブ感が溢れているのだ。