2008年2月、フィアット500が日本に上陸した。日本でも今なお根強い人気を誇っているが、デビュー当時はどのような評価を受けていたのだろうか。Motor Magazine誌では特別企画を組んで、2007年ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得した魅力と実力を検証している。今回はその試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年5月号より)

日本市場向けには1.2Lガソリンエンジンを搭載

ヨーロッパ市場に向けては1.4Lの4バルブエンジンやディーゼルエンジンの設定もある新型500も、日本市場向けには1.2Lの2バルブガソリンエンジンのみを搭載。が、そんなこのモデルはそうしたハンディキャップをさして意識させない。1010kgの重量に69psの心臓というスペックからの予想はしっかりと上回る加速のポテンシャルを味わわせてくれる。

もちろんそれは「強力」という言葉が使えるほどのものではない。けれども、東京の幹線道路でのそれなりに素早い信号グランプリにも遅れを取る気配はないし、また右足を深く踏み込めばそれをリードする事すらも難しくない。

ただし、デュアロジックを名乗る2ペダル式MTの仕上がり具合は何とも古典的。自動変速のモードではいつまでも2速ギアを引っ張り続けようとするし、マニュアル操作をしても変速時の空走時間が長く、いずれにしてもスムーズに走らせようとするにはそれなりのコツを必要とする。

正直なところ、東京都心をベースに一般道、そして首都高速と1時間ほどを走り回った今回の試乗中も、何度も「これならば普通の3ペダルMTを導入してくれれば良いのに」と呟くことに。もちろん、日本でより多くの数をセールスしようとすれば、現状の設定も理解はできる。が、坂道発進をサポートしてくれるヒルホールドシステムが標準装備となるのならばなおのこと、MT仕様の導入も切に希望をしたい事柄だ。

フロントがストラット、リアがトーションビームと、ベーシックなコンパクトカーでは定番でもあるサスペンションシステムを採用するこのモデルのフットワークのテイストは、「路面凹凸への初期の当たりは優しいものの、その先は余りスムーズにストロークをしてくれない」というのが率直な印象だ。

比較的入力の小さな低速域の乗り味は「なかなかいいナ」と思わせてくれる半面、速度の高まりと共に路面からの入力が大きくなり始めると徐々に上下Gが強まり、高速走行時のフラット感はいまひとつ。

加えて、微低速時を中心に電動パワステが生み出す反力は乏しく、操舵力設定のスイッチ位置にかかわらずステアリングフィールもいまひとつと言わざるを得ない。正直こちらは「これならば油圧式パワステにして欲しい」と感じられるもの。個人的には、このモデルの走り味で最も気になるポイントだ。

これまでに指摘をしてきたようないくつかの点、そして「足下も頭上も大人にはミニマムサイズ」の後席スペースに、後席を使用する時にはわずかに185Lという容量のラゲッジスペースなどと、単純に最新コンパクトカーとしての評価基準をあてはめてしまえば、そこでは問題山積ということにもなってしまいそうな存在が新型フィアット500だ。

しかし、そんなウイークポイントを「仔細な事柄」とすべての人に納得させてしまえそうなところこそが、このクルマならではの、歴史に育まれた特異なブランド力というものなのだろう。(文:河村康彦/Motor Magazine 2008年5月号より)

画像: 低速トルク出力に優れるエンジンは排出ガス規制ユーロ5にも対応、環境性能も高い。

低速トルク出力に優れるエンジンは排出ガス規制ユーロ5にも対応、環境性能も高い。

ヒットの法則

フィアット500 1.2 8V ラウンジSS 主要諸元

●全長×全幅×全高:3545×1625×1515mm
●ホイールベース:2300mm
●車両重量:1010kg
●エンジン:直4SOHC
●排気量:1240cc
●最高出力:69ps/5500rpm
●最大トルク:102Nm/3000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:5速AMT(デュアロジック)
●車両価格:233万円(2008年)

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