2008年、BMW M3カブリオレが注目のDKG(デュアルクラッチトランスミッション)とともに登場している。この後、M3クーぺやM3セダンへの搭載が予定されていたDKGは、M3にどんな走りをもたらしたのか。Motor Magazine誌では、M3カブリオレの走りとともに、DKGの真価を探っている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年7月号より)

油圧制御技術の進歩によって市販化が実現

しかし実用化といっても、当時は高性能高油圧制御系の技術はなく、すべて機械式であったためにポルシェ・デュアル・クラッチ(PDK)の操作は非常に難しく、腕力のいるものであったらしい。事実、このシステムを実際に操作したラリードライバーのワルター・ロールやF1ドライバー、ハンス・ヨアヒム・シュトゥックに直接聞いたところによれば、腕の骨が折れるほど大変な作業だったという。つまりこのPDKは結局、956や962またアウディのWRC用ラリークワトロなどのレーシングカーに使われただけで、市販化はできなかったのである。

そして今日、コンピューターによる高圧油圧制御技術の進歩によってこの複雑で素早い2枚のクラッチ制御が可能になり、デュアルクラッチを使った「ユーザーフレンドリーなAMT」が徐々に実現可能になってきたのである。

この分野で先陣を切り、成功を収めたのはなんと言ってもフォルクスワーゲンのDSGであろう。

ダイレクトシフトギアボックス(DSG)と名付けられたこのシステムには、現在6速と7速が存在し、前者は湿式、つまりクラッチは冷却のためにオイルに浸かっており300Nmまで耐えられるのに対して、後者は乾式で250Nmまで耐え得る仕様となっている。

このシステムは実に良くできておりこれまでトルコン式ATを使っていたユーザーはもちろん、マニュアル好きのドライバーからも好評化を受け、昨年までに100万基がフォルクスワーゲンのカッセル工場から出荷されていった。

そのお陰かどうかはわからないが、現在のドイツにおけるオートマチックの占拠率は28%で、年々1ポイントほどで増加しつつあるといわれる。ちなみにヨーロッパ全体での普及率は19%である。

そしてこのフォルクスワーゲンのDSGに続いて、三菱ランサーエボリューションX、日産GT-Rなどの高性能モデルに「デュアルクラッチのAMT」が採用された。今回紹介するM3カブリオレもDKGと名づけられた同じような形式のトランスミッションを搭載している。

ところで、M3カブリオレのインプレッションへ入る前に、この2枚のクラッチを使うシステムに関してもう少し内容を補足しておきたいと思う。

まず、この形式のトランスミッションは、そのレイアウトから基本的には横置きエンジンを搭載した前輪駆動に向いている。それゆえに、フォルクスワーゲンがまず採用したわけである。また一方で、日産GT-R、そして今回紹介するM3、さらに北京モーターショーで発表されたアウディQ5の縦置き7速Sトロニックのように、高回転エンジンを搭載するスポーツモデルや4WDにも適合性は高い。

さらに、このシステムの要であるデュアルクラッチの基本特許は、現在すべてボルグワーナーが押さえており、このユニットをルーク(フォルクスワーゲン)やZF(ポルシェ)、ゲトラグ(日産、BMW)あるいはゲトラグ・フォード(三菱、ボルボ)などが自製のトランスミッションとコントロールユニットを組み合わせて、各自動車メーカーに提供しているのである。

ちなみに今回紹介するM3に搭載されるデュアルクラッチシステム、DKGは7速ギアを持ったゲトラグ製である。

画像: SMGと同形状のセレクトレバー。シフトパターンも基本的にはSMGと同じ。

SMGと同形状のセレクトレバー。シフトパターンも基本的にはSMGと同じ。

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