豪華さと快適さ、そしてスポーツ性を巧みにあわせ持ったシートに身体を収めてコクピットを見渡す。インテリアはもちろんM3クーぺに準じており、ドライバーの正面には330km/hまでスケールが広がったスピードメーター、その隣には8300rpmからレッドゾーンが始まる9000rpmまでのタコメーターが並んでいる。
センターコンソールに視線を落とすと、そこには見慣れたSMGと同形状のセレクトレバーがある。そこにあるシフトパターンも基本的にはSMGと同じで、ニュートラルの左上がリバース、そして右がマニュアルポジションで、前に押すとシフトダウン、手前に引くとシフトアップという独自のロジックによるマニュアルシフト操作ができるようになっている。
またさらに右側にプッシュするとオートマチックモードとマニュアルモードに切り替えることができる。そして手前にあるボタンでシフトスピードを6通りに変化させることも可能である。
さらにオートマチックモードとマニュアルモードには合計11のシフトモードが用意されている。これらは、ダッシュボードにあるモニターを見ながら、コンソールにあるiDriveダイアルを操作して選択することが可能である。
まずはオートマチックモードを選択して走り出す。スタートはトルコンに勝るとも劣らないほどスムーズで、低速でのシフトアップ時もSMGのようなギクシャクした動きはまったく感知されない。また苦手だったシフトダウンも同様にスムーズである。驚いたのはこのオートマチックモードでの全体の動きが、トルコンというよりはまるでCVTのような感じでクラッチが慎重にオンオフを繰り返していたことであった。SMGで学んだクラッチ保護のノウハウがここに現れているのだろうと想像できる。
続いてマニュアルモードに切り替え、セレクトボタンで順次シフトスピードを変えながら走る。もちろんこのスポーツセッションでのシフト操作は、ステアリングホイール背後から伸びたパドルで行う。
最初はここでも、ほとんどトルコンのマニュアルモードと変わりのないスムーズな動きをみせていたが、シフトスピードが速くなるにつれて、クラッチのミートが行われている様子が適度なショックをともなって気持ちよく伝わってくる。しかしシフトダウンはどちらかと言えばまだ慎重である。
このDKGは7速であるが、クロスレシオというよりも、7速目はやや高く設定されているので、クルーズ用と解釈するのが正しいようである。
この日のテストでは主にデュアルクラッチの性能を確かめながら、一般道路とアウトバーンをあわせておよそ800km走ったが、M3カブリオレに限らず、M3の魅力はこのDKGの登場でさらに磨かれたといえる。
はっきり言って、日本でM3を買うならば、DKGは不可欠であると思う。ただし問題がなくはない。DKGのオプション価格は、3800ユーロ(約61万円)と決して安くないのだ。つまりテストしたM3カブリオレの、ドイツにおける基本価格は19%の付加価値税込みで、7万7750ユーロ(約1244万円)になってしまうのである。(文:木村好宏/Motor Magazine 2008年7月号より)
BMW M3カブリオレ DKG 主要諸元
●全長×全幅×全高:4615×1804×1392mm
●ホイールベース:2761mm
●車両重量:1830kg(EU)
●エンジン:V8DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:420ps/8300rpm
●最大トルク:400Nm/3800rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速DCT(DKG)
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:5.1秒
※欧州仕様