刺激的な走りに釣り合った攻撃的とも思える外観
正直言って最初は、その外観はいくら何でもヤリ過ぎじゃないかと思った。ダーククロームのトリミングが施されたヘッドランプはいかにもワルそうだし、バンパーの開口部も大きい。しかも、そこから連なる左右のフェンダーはドーンと張り出してワイドなスタンスを形づくっているのだ。ディフューザー形状とされたリアバンパーにくわえ込まれた4本のマフラーエンドも含めて、そのエクステリアはとにかく全方位に威圧的と言える。
個人的には決して嫌いではない。しかしメルセデス傘下で、そのラインアップの頂点を担う役割を与えられてきたここ10年ほどのAMGに親しんできた人にとっては、ここまでアグレッシヴな外観は、敬遠する要素にもなるのではと感じたのだ。
だが実際にその走りを存分に味わった後には、ネガティヴな懸念は消え去っていた。これだけ刺激的で魅惑的な走りっぷりを見せるのだ。外観だって、このぐらいやってちょうど良いというものだろう。
このセグメントをリードするBMW M3は新型になって随分と大人びた。もっとも、いざそのステアリングを握れば、そこには間違いなくMならではのリアルスポーツ的な世界が広がる。その走りの気持ち良さには率直に言って甲乙付け難い。しかし、やはりちょっとわかりにくいかなと感じるのは確かである。
そこへ行くとAMGは、この意気込みがほとばしり出たような佇まいやドライビングフィールがストレートに響いてくる。この手のモデルを欲する人、皆が皆、真剣に鞭を入れることだけを前提としているわけではないはず。そう考えると、C63AMGこそズバリ感情に突き刺さるという人は少なくないように思う。
実際このC63AMG、セールスは本社の予想以上に好調だという。日本へのデリバリーが遅れているのはそのため。しかし、それもこの内容からすれば頷けるところではある。
Dセグメントのハイパフォーマンスカーという、このニッチなセグメントの戦いも、いよいよ全面戦争の様子を呈してきた。M3は4ドアセダンを用意し、カブリオレのデビューとともに待望のデュアルクラッチ機構のDKGも投入する。またRS4と同じく、このC63AMGもセダンのほかにステーションワゴンも用意される。さらに将来に目を向ければ、M3クーペに対抗するべく、次期CLKのAMGには相当力が入れられることだろう。またアウディも数年のうちにRS5を登場させてくるに違いない。
取り敢えずはM3セダンにDKGが設定された時が、本当の意味での戦いの幕開けとなる。その日が来るのが待ち遠しい限りだが、今の時点でもひとつ言えるとすれば、それはメルセデスにとって、この戦いが間違いなく、これまでにないほど良い戦いになるだろうということ。それはここに保証しよう。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年7月号より)
メルセデス・ベンツ C63AMG 主要諸元
●全長×全幅×全高:4720×1795×1440mm
●ホイールベース:2765mm
●車両重量:1800kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:6208cc
●最高出力:457ps/6800rpm
●最大トルク:600Nm/5000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:7速AT
●車両価格:1020万円(2008年)