一方で、そうした大英断を採り入れたXFのデザインは、これまでのジャガーとは一線を画す、並々ならぬ新型車開発へのエネルギーが感じられるものでもある。何よりも、こうした手法を採り入れつつ、XFのエクステリアデザインはドイツ車に似るどころか、どこから見てもジャガー以外の何者にも見えないオリジナル性の確立に成功している点が賞賛に値する。XFは、ドイツ車がいち早く採り入れた機能性の高さを、固有のブリティッシュネスと巧みに融合させたプロポーションなのだ。
そんなXFのドアを開き、ドライバーズシートへと身を委ねる。すると、今度はそのモダンな空間の演出ぶりに、再び驚き、感心させられる。
高く切り立った造形のダッシュボードに、レザーやウッドをふんだんに用いたクラシカルな各部の仕上がり。それもまた少し誇張気味に表現すれば、これまでのジャガーのサルーンの、基本的かつ典型的なインテリアの雰囲気だった。
ところが、XFのインテリアにはもはやそうした保守的な英国高級車的イメージは微塵も漂わない。むろん、レザーやウッドといった伝統素材はXFにも惜しげなく多用され、例えば「ウッドパネルの面積は、1960年代のマーク2以降のモデルでは最大」といったコメントも聞かれる一方、ダッシュボードのフェイシアには全モデルでアルミニウム素材を標準採用する。
極め付けはエンジン始動時の演出。スマートキーの携帯者が乗り込んだことを感知して心臓の鼓動のごとくリズミカルに明暗を繰り返すコンソール前方のスタートボタンにタッチすると、エンジン始動とともにそれまでコンソール表面と面一だったATのセレクターダイヤルが上昇。さらに、それまでは閉じられていた空調ベントがゆっくりと回転しながらオープン、出発の準備が整ったことを視覚的にもアピールする。
こうしたギミックは、これまでのジャガー車にはもちろん見られなかったもの。そしてまた、エクステリアと同様、場合によっては保守的なジャガーファンに対しては反感すら買いそうなデザインを大胆にも採用したその英断に、ジャガー開発陣と経営陣の並々ならぬ決意のほどが感じられもする。
同時に、こうした大胆なインテリアのデザインが、しかし「イギリス車であるからこそ実現できたもの」と納得できるのも、また評価に値するポイント。確かに、これまで築かれてきた「ジャガーらしさ」とは異なるが、だからと言って「機能的ではあるが、どこかビジネスライクな雰囲気が漂う」ドイツ車とも異なり、そしてもちろん「ソツなく仕上がっているもののどれも同じように見える」日本車とも大いに異なるテイストが実現されている。
かくして、各部で「新しいブリティッシュネス」をアピールするXFのルックスは、どこをとっても何とも巧みな仕上がりであると、ぼくは改めて絶賛したい。