ポルシェは2020年に大きなニュースをいくつも発信してきたが、その中でもピュアEV(電気自動車)であるタイカンの日本市場での正式デビューは大きな注目を浴びた。言わずと知れたスポーツカーブランドがピュアEVを作り出したらどのようなモデルに仕上がっているのか気にしている人も多いことだろう。このほかにもポルシェエクスペリエンスセンター東京の発表、東京・有明と原宿で展開されたポップアップストアはこれまで日本市場になかった施設である。なぜこうした「初」の取り組みを行ってきたのだろうか。さらにタイカンのスポーツ性などをポルシェジャパン執行役員の前田謙一郎氏と、ポルシェカレラカップジャパン(PCCJ)に参戦している小河諒選手に話を聞いた。(インタビュアーはMotor Magazine誌 千葉知充編集長)

タイカンの加速は自然吸気エンジンのようで、重さを感じない

千葉 ポルシェカレラカップジャパン(PCCJ)に参戦し、PTE(ポルシェトラックエクスペリエンス)講師も務める小河選手に、ポルシェブランドやタイカンについてお聞きしたいのですが、まずはポルシェのスポーツカーを感じる部分はどんなところでしょうか。

小河 「こだわり」だと思います。さまざまメーカーが自社ブランドの方向性をトレンドに対応して変化させていますが、ポルシェは独自性やコンセプトを大きく変えることなく作り続けています。デザイン的にも356から始まってナロー、930以降もサイズは大きくなっても、見てすぐにポルシェだとわかるこだわりは他のメーカーにない芯の強さではないでしょうか。フェルディナンド・ポルシェ博士が最初に開発したクルマが電気自動車で、タイカンで原点回帰したことにも因果を感じます。

画像: 小河 諒 氏(レーシングドライバー) ポルシェカレラカップで過去2度のシーズンチャンピオンを獲得した実力を持つドライバー。現在はポルシェトラックエクスペリエンスセンターのインストラクターも務める。父親は1980年代〜1990年代にトヨタワークスドライバーとして活躍した小河 等 氏。

小河 諒 氏(レーシングドライバー)
ポルシェカレラカップで過去2度のシーズンチャンピオンを獲得した実力を持つドライバー。現在はポルシェトラックエクスペリエンスセンターのインストラクターも務める。父親は1980年代〜1990年代にトヨタワークスドライバーとして活躍した小河 等 氏。

千葉 911はRRという独特の駆動方式ですが、レースのような極限状態ではどのようなところにポルシェらしさを感じますか?

小河 トラクションが良い、ブレーキングが良いという話は有名ですが、私の場合はセッティングの正解を導きやすい素性の良さだと思います。FRやMRではさまざまな方向からクルマを速くするためのセッティングのアプローチが行われますが、RRの場合は煮詰めていく方向性がシンプルです。ドライバーの能力を引き出すセッティングを見つけやすく、そのためドライビングを迷うことはありません。

千葉 どうしたらポルシェらしさを感じられますか?

小河 一般道で乗る人もサーキットで走る人も、レースをする人も、もっと独特のRRやポルシェそのものを楽しみながら走ってほしいです。私もそうでしたが、頭で「RRだからこう走らなくてはいけない」と考えずにもっと全身でクルマを感じて欲しいです。理詰めで攻めるのはそれを乗り越えてからでいいと思っています。

千葉 911以外のポルシェ、たとえばパナメーラやカイエンなどでも同じですか?

小河 やっぱり同じ雰囲気って出ますよね。さすがにカイエンは違うだろうと思っても、軽くて機敏な切り返しをしてくれます。現行型(E3)が出たときに富士スピードウェイのショートコースを「ひっくり返してやろう」という気持ちで攻めたときであっても、つねに安定している。SUVなのにこれはすごい、と驚かされました。
911はもちろんですがパナメーラであろうとカイエン、マカンであろうとポルシェのクルマはやっぱり「スポーツカー」なんです。スポーツカーとは何か、これをわかってて作ってるメーカーって少ないかもしれませんね。背が低くて幅が広くて2シーターというだけじゃダメ。話はもどりますが、「サーキットでの速さを引き出しやすい」という点もポルシェらしさのひとつだと思っています。

千葉 小河さんもタイカンに乗られたということですが、どうでしたか?

小河 もうちょっと電気自動車らしさがあるのかと想像していましたが、走り出した瞬間から「全然電気じゃないな」と感じました。ドライバーに伝わってくるフィーリングはガソリン仕様の、それも自然吸気エンジンと変わらないですし、そういった点は素晴らしいです。

千葉 そこにポルシェらしさは感じましたか?

小河 エンジンを搭載するポルシェ車とは構造が違いますからね。従来のポルシェは「ボディをいかに動かして速く走るか」ということを突き詰められていましたが、タイカンは低重心で、ボディを動かして速く走るわけではないんです。しかし、そうした乗り味の中でも「止まる・曲がる・走る」にフォーカスして、とくにブレーキやハンドルのタッチがすごく良い。従来のガソリン仕様のポルシェと同じフィーリングを感じられます。

千葉 ポルシェは、軽量で軽快な走りを楽めますが、タイカンはターボだと2.5トン近くあります。その重さをどう感じましたか?

小河 そこは電気モーターの良いところで、最大トルクで約1000Nm(タイカン ターボS)も出るじゃないですか。だから重さを感じない。水平対向6気筒ガソリンエンジンを搭載した911と同じようなスポーツ性を感じられるのは良いですね。ポルシェのDNAを受け継ぐスポーツ電気自動車がタイカンなんだと思います。

画像: ポルシェ 911GT3 カップのワンメイクレース「カレラカップ」に参戦する小河 諒 選手。2013年にはじめて997型の911カップカーをドライブし、そこからレース成績も上がり始めたと言い、「ポルシェは自分を育ててくれたブランド」だと語る。(写真の車両は小河選手がドライブしたものとは異なる)

ポルシェ 911GT3 カップのワンメイクレース「カレラカップ」に参戦する小河 諒 選手。2013年にはじめて997型の911カップカーをドライブし、そこからレース成績も上がり始めたと言い、「ポルシェは自分を育ててくれたブランド」だと語る。(写真の車両は小河選手がドライブしたものとは異なる)

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