スポーツカー、スポーツセダンの「定義」の変化
アウディのDセグメントゾーンに強力なニューカマーが加わった。2008年の北京自動車ショーでワールドプレミアを果たしたQ5である。このモデルは原油高の今だからこそ、いいタイミングでデビューしたと思う。アウディはDセグメントの新しいラインアップに、まず2ドアクーペのA5を尖兵として送り出し、次いで看板モデルのA4とそのアバントをリリース、そしてスポーツSUVを謳うQ5をいよいよ世に問うことになった。
このモデルは同社のフルサイズSUV、Q7の弟分にあたり、フォルクスワーゲンのトゥアレグに対するティグアン、BMWのX5とX6に対するX3、メルセデス・ベンツMクラスに対するGLKの関係と同じと考えていい。そして近い将来デビューするカイエンの弟分、ミニ(またはベビーの仮称)カイエンもライバルとなる。
ここでいわゆるSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)について、ざっとおさらいをしてみたい。このジャンルのクルマは多岐にわたるが、そのほとんどは巨大な北米マーケットのニーズに応えたものなので、大きく力強く頑丈であることが必要条件となる。しかし近年になってその流れが変わってきた。オフロード性能に軸足を置いたクロスカントリータイプよりもオンロード性能や快適性をユーザーが求めるようになったのだ。
そこを狙って大成功を収めたのがBMWのX5だった。姿カタチは背の高いオフロード系なのに運動性能はスポーツセダンのそれだったからだ。そのマーケット(のさらにリッチ層)に斬り込んだのがポルシェで、カイエンを発売するとこれまた大当り。911のユーザーがセカンドカーに購入するケースが多かったという。あのポルシェがSUVを、と世間は驚いたが、文字通りポルシェのドル箱となった。
BMWはX5に続き、3シリーズのプラットフォームとパワートレーンを使ったX3を発売するが、これは北米のみならず欧州圏、日本でも好評を博した。ちなみにBMWはXシリーズにSUVという呼称はつけず、独自にSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル、X6はSAC)と名乗る。
こうして21世紀に入ってからというもの、クルマの価値観は大きく変わった。つまり、スポーツカー、スポーツセダンの「定義」の変化である。低い車高と固めたサスペンションで旋回性能を高め、ハイパワーエンジンで縦横に走るというかつてのスポーツモデルよりも、新技術、新機軸を詰め込んだスポーティなSUVの方が、実際に快適で速い、使いやすい、となればユーザーはそちらに流れて行く。
現在の第三次オイルショックともいえる状況下で大型SUVマーケットはとても厳しい状況に陥っている。しかし各メーカーは生き残りを賭けて、新世代SUVの開発競争を絶えまなく続けているのだ。