2008年8月、5代目ゴルフのヴァリアントに122ps仕様の1.4TSIエンジンと7速DSGを搭載する「TSIトレンドライン」が登場した。Cセグメントの実用性本意のワゴンとして、このゴルフヴァリアントのエントリーモデルはどう評価されたのか。Motor Magazine誌ではワゴン特集の中で、ヴァリアントはゴルフシリーズにあってどういう存在なのか、トレンドライン同士でゴルフ/ゴルフトゥーランと比較しながらその魅力を探っている。今回はその興味深いレポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年10月号より)

同じトレンドラインながらトゥーランは140ps仕様を搭載

それではトレンドライン同士で、ヴァリアントとゴルフ、そしてトゥーランを比較してみよう。同じトレンドラインと名乗りながら、トゥーランの搭載エンジンはシングルチャージャーの122ps仕様ではなく、ツインチャージャーの低出力版である140ps仕様としている。トランスミッションも7速乾式DSGではなく6速湿式DSG。重さやハイトパッケージに伴う前面投影面積の大きさを考えると、122psのシングルターボではやはり荷が重いのだろう。

トゥーランにはかつて1.6Lの自然吸気エンジンも搭載されていたのだから、122ps仕様も考えられなくはないのだろうが、140psにベーシックモデルを意味するトレンドラインの名が使われたことから、今後もエンジンラインアップに変更はないだろう。シングルターボの登場で、ハッチバックではその存在感がやや希薄になった140psツインチャージャー(ゴルフの場合はTSIコンフォートラインと呼ばれる)だが、多人数乗用車のトゥーランではベースエンジンとしてちょうど良いパワーユニットとなったわけだ。

実際、その走りも実直で好ましいものだった。6速DSGと低速トルクの強力なツインチャージャーエンジンとのコンビネーションは、極低速域で頻繁にクラッチがオンオフするような状態でややギクシャク感を伴うことがあったが、これはソフトウエアの熟成が進んだのか、かなり自然なフィールになっている。また、ゴルフでアクセルを2度踏みしたりすると、トルクが盛り上がって来た時にクラッチがつながりキュッと飛び出してしまうことがあったのだが、トゥーランは車重が大きいせいもあって、この辺の所作がもともと穏やかなのも都合が良い。

もちろん初速の乗り方はツインチャージャーらしくなかなかに力強い。中速域から高速にかけての伸びも、実用エンジンとしては十分以上の性能。燃費は10・15モードで12.6km/Lと、ゴルフやヴァリアントのトレンドラインと較べると相応に劣るが、それでも7名乗車が可能なミニバンとしては立派な経済性である。

では次に、ゴルフとゴルフヴァリアントのトレンドラインの走りを見ていこう。こちらに搭載されるのはともに122psの1.4Lシングルチャージャー+7速DSGである。

ゴルフとゴルフヴァリアントの間には60kgの重量差がある。これが走りにどういった影響を与えているのかが最大の興味だったのだが、よほど細かく観察していないとその差はわからない。すなわち重いヴァリアントでも動力性能は十分以上と感じられるのだ。

7速DSGは6速DSGに対し1速がローギアードになっていることもあり、シングルターボ化で心配された低速域での非力感や、ターボラグといったものも一切感じさせない。トゥーランへの搭載でその価値が見い出された140psのツインチャージャーだが、ゴルフのコンフォートラインは正直言って、その存在に明確な意味を感じるのは難しい。それほどにトレンドラインの出来が良いのである。

ゴルフとヴァリアントの差異は、動力性能のみならず操縦性においてもごく少ない。ボディ後部が重いヴァリアントの性質上、ヨーモーメントやロールの収束がやや遅れるといった傾向はあるものの、ヴァリアントのハンドリングも実に正確で楽しい。

明確な違いとして感じられるのはタイヤによる差だ。ゴルフには転がり抵抗の少ないエコタイヤが装着されており、コーナーでの腰くだけ感や早めにおきるスキール音でドライバビリティを損ねている。しかしヴァリアントはコンチネンタルのスポーツコンタクト3で、粘り強くコントロール性に優れたゴルフ本来のハンドリングを味わわせてくれるのである。

こういった装備レベルのことまで考え、さらにコストパフォーマンスや実用性までを加味すると、ゴルフヴァリアントTSIコンフォートラインは、現時点でゴルフシリーズのベストチョイスと言えるだろう。燃費性能も、15.2km/Lとゴルフトレンドラインの0.2km/L落ちでしかない。

仲間や家族とともに多くの荷物を持って目的地を目指すクルマ、そしてその道程が経済的であるばかりか楽しむことのできるクルマ、ゴルフヴァリアントは文字通りの万能選手だ。(文:石川芳雄/写真:永元秀和)

フォルクスワーゲン ゴルフヴァリアント TSIトレンドライン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4565×1785×1530mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1370kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1389cc
●最高出力:90kW(122ps)/5000rpm
●最大トルク:200Nm/1500-4000rpm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・55L
●10・15モード燃費:15.2km/L
●タイヤサイズ:205/55R16
●車両価格(税込):259万円(2008年当時)

フォルクスワーゲン ゴルフ TSIトレンドライン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4205×1760×1520mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1310kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1389cc
●最高出力:90kW(122ps)/5000rpm
●最大トルク:200Nm/1500-4000rpm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・55L
●10・15モード燃費:15.4km/L
●タイヤサイズ:195/65R15
●車両価格(税込):248万円(2008年当時)

フォルクスワーゲン ゴルフトゥーラン TSIトレンドライン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4420×1795×1660mm
●ホイールベース:2675mm
●車両重量:1600kg
●エンジン:直4DOHCツインチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:103kW(140ps)/5600rpm
●最大トルク:220Nm/1500-4000rpm
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:12.6km/L
●タイヤサイズ:205/55R16
●車両価格(税込):278万円(2008年当時)

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