ゴルフやトゥーランではなくヴァリアントを選ぶ理由
では次に、本家であるハッチバックのゴルフとヴァリアントの関係について考えてみたい。言うまでもなくゴルフはCセグメント車のベンチマークとなるクルマ。中でも乗るたびに感心させられるのがパッケージングで、寸法的に余裕のあるミドルサイズにまで育ったゴルフVでは、大人5人がゆったりと寛げるキャビンスペースと、想像以上に深く奥行きの大きいラゲッジスペースを両立させている。
したがってこれ1台で生活のすべてを賄うファミリーカーとしても十分な素養を身につけていると言えるが、ユーザーがアウトドア系のスポーツやレジャーを好む場合、さらに広い荷室を望むことも考えられる。そういったニーズにジャストミートするのがヴァリアントである。
ホイールベースはハッチバックと同じ2575mmながら、リアオーバーハングを中心に全長を315mm引き延ばして4565mmとしたボディにより、ヴァリアントは5名乗車で505Lという荷室容積を実現している。
実は、同じくボディ後端を引き延ばしたセダンのジェッタは527Lと、数値的にはヴァリアントを上回るトランク容量を持っている。しかしジェッタの場合、これは本当の最大限の容量。一方のヴァリアントはトノカバー下の容量を表しており、これを巻き上げて上方向にさらに物を積み重ねることができる。後方視界を妨げるような積載はお勧めはできないが、かさ張る荷物も余裕を持って積み込めるのが室内空間の大きなワゴンの強みなのだ。
そして、こうした高いユーティリティを持ちながら、走りを犠牲にしていないことこそヴァリアントの強みである。ボディの後方を引き延ばしただけなので、ベースとなったゴルフに対し重心高のアップなどはほとんどない。後部まわりのガラス面積が増えている点と、積載により前後の荷重変化が大きくなるのはワゴンの特質として考えておかなければならないものの、高さ方向を大きく変えていないため、ハッチバックと変わらない低重心がもたらす軽快なフットワークが楽しめる。
ところが、トゥーランのような本格的なハイトボディとなるとそうはいかない。上背が高いので高速での安定性確保やコーナリングでの挙動変化を抑えるためにサスペンションのセッティングを見直す必要が出てくる。速度域が高い欧州の交通環境の中では、これはけっこう大きな問題である。
そのことは今回トゥーランを走らせてはっきりとわかった。ゴルフやヴァリアントと較べると同じTSIトレンドラインの名前を掲げながらも、トゥーランの方が格段に締まった乗り味だ。入力を鮮やかにいなすダンピングの良さを伴う「爽快な硬さ」なのだが、しなやかさも感じさせるゴルフ/ゴルフヴァリアントに対して、トゥーランの乗り心地は明らかに締まり気味だ。
しかしこの硬さを許容したからこそ、トゥーランは魅力的なクルマに仕上がったとも言える。高速の安定感は狙い通りかなりの高レベル。これにはサスペンションの設定もさることながら、100mm延長されたホイールベースも大きく関係しているはずだ。
また、コーナーでの所作もロール剛性が高く、フラットな姿勢を保つので不安感はまるでない。ステアリング操作に対する反応は「キビキビ」としているとは言えないものの、大柄なボクシーボディから想像する以上に、動きは俊敏かつ正確である。
ただし、トゥーランはボディ自体が大柄な上に、サードシートを備え、それらを柔軟にアレンジする機構を備えている関係上、車重がかなり大きい。ゴルフの1310kg、ヴァリアントの1370kgに対して200kg以上も重い1600kgとなっている。