トゥーランとゴルフプラスがヴァリアント登場を遅らせた
本家のハッチバックほか、セダンモデルのジェッタやミニバンタイプのトゥーランなど膨大なラインアップを展開する中、なぜワゴンモデルとなるヴァリアントがハッチバックから3年遅れての登場となったのだろうか。
その背景には、トゥーランという多人数乗用可能なハイトワゴンが誕生したことが挙げられる。全幅/全高ともに大幅に拡大された大容積の箱形ボディに3列のシートをレイアウトし、サードシートを折り畳んでセカンドシートを前に出せば、広い荷室も作り出せるのがトゥーランの特徴であり魅力。シートアレンジの多才さはまさにミニバンならではで、これだけの柔軟性を持っていればヴァリアントの必要性がないのでは、ということだ。そういう判断がフォルクスワーゲンにはあったのかも知れない。
しかし、もしもそうであるなら、ステーションワゴンを長年愛用している僕としては、フォルクスワーゲンの読みは甘かったと言わざるを得ない。
ワゴンの魅力は後部を延長したボディによって大きな荷室を備える実用性の高さ。確かにそうなのだが、さらに大きなポイントは、このパッケージ&スタイルから醸し出されるカジュアルでアクティブな雰囲気だと思う。
ハッチバックには軽快感や塊り感があり、セダンには落ち着いた佇まいがある。それに対してステーションワゴンには伸びやかなロングルーフのフォルムから生み出される機能性がある。そうした美意識のもとにワゴンが選ばれているとするなら、背が高くボクシーなハイトワゴンのスタリングは相容れないものとなる可能性が高い。多人数乗用には生活臭もつきまといがちだから、なおさらだろう。
もちろんユーテリティの高さ、とくに7名乗車というワザは他のフォルクスワーゲンでは叶えられないトゥーランだけのもので、そこを魅力と感じる人も多いと思うが、旧来のステーションワゴン好きが求めるものとはまた異なるのではないかと思う。
以上は日本ユーザーのマインドを想定してのことだが、欧州でも状況はあまり変わらないだろう。そもそもワゴンはセダンから派生して登場した、より豊かな生活のためのクルマなのだ。ライトバンとの境目が曖昧だった日本とは、ワゴンのステータスがまるで違うのである。欧州ではコマーシャルビークルはフルゴネットやボックス型ワゴンが担当。ステーションワゴンはあくまでもパーソナルカーで、しかもセダンよりプレミアムであるとのイメージが支配的なのだ。
ちなみに、トゥーランのような多人数乗用のハイト系ボディは、欧州においてはパッセンジャーカーのニューウエーブと言える。その実用性の高さから人気を集めつつあるものの、日本のミニバンのようにファミリーカーの代名詞的な人気を得るには至っていない。そこには、欧州の家族形態のあり方が大きく関係しているはずだ。
さらにもうひとつ、ゴルフシリーズの中でヴァリアントの立ち位置を考える上で重要なのが、ゴルフプラスの存在だ。昨年末500台限定で登場したクロスゴルフのベースとなったのを最後に、日本のラインアップからは消えているが、このクルマもまた、トゥーランとは違ったゴルフの新しいパッケージを追求したクルマと言える。
その手法は標準のハッチバックから全高を85mmもかさ上げし、乗員をよりアップライトに座らせるというもの。上方向にスペースを拡大することでリアシートにスライド機構を持たせ、乗員と荷室の空間配分を柔軟に変化させられるようになっていた。
このように、様々なパッケージ改革を提案したクルマが登場したのがゴルフVシリーズの特徴だった。それらはそれぞれに成功してフォルクスワーゲンに新しい顧客を生む原動力となっているが、しかしその一方で、トラディショナルなモデルの人気も決して薄れてはいない。
その代表的な例がワゴンに対する根強い支持というわけだ。トゥーランとゴルフプラスを投入し様子を見ていたフォルクスワーゲンだが、その後も続く待望論により作らざるを得なくなったらしい。それが、ヴァリアントの登場が遅れた理由である。