オンロード性能に特化した特別なカイエンGTS
さて、もう一台のカイエンGTSに移ろう。「あのポルシェまでがSUVを」と話題を振りまいてから早6年。そんなタイミングで追加された第4のカイエンであるGTSは、絶対的なパワーよりもオンロードに特化しドライビングファンを追求している。オン/オフのマルチパーパス性をスポーツカーレベルにまで昇華させた標準型とは方向性の異なる特別なグレードだ。
エンジンはガソリン直噴(DFI)の自然吸気4.8L。カイエンにはすでに500psという圧倒的なパフォーマンスを持つターボがあるが、GTSはそれを敢えて選んでいない。自然吸気ならではの回転の上昇と、それと共に盛り上がるパワーの伸びを楽しませようという狙いなのだろう。ちなみにこのエンジン、カイエンSのものをベースに吸気系とマネジメントシステムを変更し+20psを得ている。
だからなのか、試乗車はティプトロニックSではなく、6速MTがセットされていた。最終減速比が低く加速重視となっているのも、このGTSの方向性を表している。
大きな質量のSUVがアクセルオンでズイッと走り出すATの走りに慣れきっているゆえ、カイエンをマニュアルで操るのはちょっと緊張感が高まる。とくにスタート時のクラッチのエンゲージや、市街地での低速走行では、質量に見合ったトルクが今あるかどうか神経を使う。
もちろん排気量が4.8Lもあるのだからトルクは太いのだが、しかし有り余るほどではない。それにストロークが長めでゲート感も曖昧なポルシェらしからぬシフトフィールも気になるところだ。
しかし高速やワインディングで思い切り回せる場面では無上に楽しい。エンジンは文字通り「シャンシャン回る」タイプ。トルクで押し出されるのではなく積極的に回してクルマを前に出す感覚は今までのプレミアムSUVにはなかった感覚だ。
しかも、その際のサウンドが抜群に心地よい。先にX6も快音だと言ったが、高回転域の伸びと抜けの良さでは一歩上を行く。というわけで、燃費も気にせずついつい6600rpmのレブリミット一杯までアクセルを踏んでいる自分がいた。
ハンドリングも他のカイエンとは違う。それもそのはず、24mmローダウンの専用サスペンションに295/35R21というロープロファイルタイヤを履いているのだ。ここだけを見てもGTSがオフロード性能をそれほど重視していないことがわかる。
ターンインのグラリ感はほとんど感じられず、旋回中の姿勢も格段にフラット。2.3トンの巨体がよくもまあこう曲がるものだと感心する。ただ、そうは言ってもやはり質量は大きく、速度調節を誤ればドッとアンダーが強くなるし、締まっているとはいえ上屋の動きはそれなりにある。ポルシェの場合、どうしても操縦性の基本が911やケイマンなどのロードスポーツになりがちだが、カイエンの場合、いかにGTSといえど、あのようなソリッド感/一体感までは実現できていない。