新しいエンジンを搭載、刺激的なX6 xDrive50i
X6は実にニュースの多いクルマだ。BMWはX5をSUVではなく、SAV(スポーツアクティビティヴィークル)と称している。X6はその流儀に則りSAC(スポーツアクティビィティクーペ)を標榜。つまりはクーペルックのSUVである。
この種のコンセプトは何度か過去に提案されたことはあったものの、現実に商品となったのは、オープン2シーターという過激なパッケージングのせいで短命に終わったスズキのX90くらいしか思い浮かばない。もっともX90はエスクードベースのコンパクトサイズ。一方のX6は全長4885mm×全幅1985mm×全高1690mmというサイズだ。
実際、その存在感には圧倒される。プラットフォームを共用するX5に対して全長25mm、全幅50mmの拡大になっていることもあるのだろうが、一方で全高は75mmも低くなっている。高さはクルマのサイズ感に大きな影響を与えるものだから、X5より小さく感じても良いと思うのだが、厚みのあるフロントマスク、崖のように切り立ったテールゲート、そして絞り込まれたガラスエリアが小山のようなボリューム感を醸している。
この存在感、異物感だけでも、X6の価値は十分にあると思うのだが、BMWはこのクルマに本気でクーペに相応しい運動性能を与えた。それが標準状態の前後駆動力配分を40:60とややリア寄りに設定し状況に応じて変化させるxDriveシステムに加えて、X6で初めて搭載されたDPC(ダイナミックパフォーマンスコントロール)である。
DPCは、リアタイヤの左右駆動力配分を状況に応じて変化させることで、駆動力でヨーモーメントの発生や打ち消しを行うもの。古くはホンダがプレリュードに搭載していたダイレクトヨーコントロール、最近ではレジェンドのSH-AWDや三菱ランサーエボリューションのSAWCと同じコンセプトの機構だ。
また、軽量化に意欲的なのもX6の特徴で、ボンネットはアルミ合金製、フロントフェンダーには軽量な樹脂素材を採用している。
そしてさらに、xDrive50iには新しいV型8気筒が搭載される。N63B44Aと呼ばれるこのエンジンは、X5のトップユニットである4.8L自然吸気のN62B48Bに対し排気量を下げながら、過給によりそれを大幅に上回るトルクとパワーを発生する、ダウンサイジングコンセプトに基づいて作られている。
面白いのは、吸排気系のレイアウト。通常のV型エンジンはVバンク内に吸気系を置き、外側排気とするタイプがほとんどだが、この新しいV8はエキゾーストをVバンクの内側に設けている。片バンク4気筒ずつを受け持つ2つのタービンをここに置いてコンパクト化を図るとともに、吸気経路を短くすることで圧力損失を減らし、さらなる高出力/高レスポンスを狙っているのだ。
そのドライブフィールは刺激的だ。排気量が4.4Lもあるので、低速トルクは十分。N63B44Aは最大トルクの600Nmを1750rpmから4500rpmにかけてフラットに発生させるが、それ以下の回転域でも十分に力強く扱いやすい。
アクセルに徐々に力を込めていくと厚みのあるトルクと共にモリモリと速度を乗せる。しかしそのパワーフィールはターボにありがちなトルク変動が一切なく、どこでどう踏んでも瞬時にパワーがついてくる。
2.3トンもの質量を持つSUVがこれほど機敏な動きを見せると、豪快というより、不気味ですらある。以前にも同じような感動を味わったと記憶を辿るとカイエンターボに行き着いた。ちなみにそのカイエンターボの0→100km/h加速は5.1秒、X6 xDrive50iは5.4秒。ベースとなる排気量がカイエンターボの方が大きく、トルクも700Nmあることを考えれば当然だろう。
もうひとつ、X6 xDrive50iの魅力として挙げられるのはエキゾーストサウンドだ。V8を積むSUVは北米市場を意識してか特有のゴロゴロとした排気音を低速域から際立たせる傾向が強いが、X6のV8は回転の上昇と共に盛り上がる抜けの良いサウンドが特徴。これは積極的に聞きたくなる快音であった。