2008年、ゴルフR32に次ぐRシリーズ第2弾、「パサートヴァリアントR36」が日本に上陸した。ゴルフR32は高いパフォーマンスと質感ですでに定評があったが、パサートR36はどうだったのか。そのあり方はアウディのSモデル/RSモデルとどう違っていたのか。今回はアウディRSアバントとの違いに着目した興味深い試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年11月号より)

パサートR36にはゴルフR32に一脈通じる味わいがある

さて、そのパサートR36、エクステリアは専用の前後バンパーおよびサイドステップでまとめられ、足下はゴルフR32にも一脈通じるRシリーズ専用デザインの18インチマルチスポークホイールで固められる。インテリアはレザーとアルカンタラのコンビからなるリクライニングバケットシート、および専用デザインのペダルやアクセントの付けられたDシェイプステアリングやシフトノブが特徴的なディテールだ。このあたりもゴルフR32と同様の演出だが、Rシリーズでお馴染みになりつつあった細かなピッチのエンジンターンドトリムは与えられず、内装はアルミのヘアライン仕上げとなっている。モデルのユーザー層や性質を考えてのことだろうが、やや寂しい気もしなくはない。

R36に搭載されるエンジンは10.6度という超狭角の3.6L V6となる。先にトゥアレグにも積まれている最新世代のそれは、吸排気系やマネジメントの変更による高回転化が施され、日本仕様では299psを発揮。この微妙な数字はkWをpsへと変換する際の四捨五入を律儀に表記してのもので、実際は300psを唱う欧州仕様と同一と考えて差し支えはない。そのエンジンと組み合わされるトランスミッションはお馴染みの6速DSG。これをハルデックスカップリングの4MOTIONでドライブするというのがこのクルマの成り立ちだ。ちなみに今冬の導入が噂されるパサートCCのV6モデルもこれと同一のパワー&ドライブトレーンが用いられている。R36のセダン版が導入されなかった経緯は、恐らくCCとのバッティングを避けたいという日本法人の思惑もあったのだろう。

このパワーを受け止めるシャシ側には、モンローとの共同開発からなるDCCと呼ばれる電子制御可変ダンパーが用いられた専用チューニングのサスペンションが採用された。そもそも可変ダンパーのようなギミックには消極的なフォルクスワーゲンだが、さすがにこのクルマほどのサイズとパフォーマンスになると、快適性との両立からそれを検討するに至ったのだろう。ちなみにこのDCC、通常時は走行状況に応じてアクティブにレート可変するシステムで、任意にコンフォートとスポーツのモードが固定できるようになっている。この操作ボタンはシフトノブの脇に据えられており、自光式でモードを知らせる仕組みになっているが、直射日光などでその確認が妨げられることが多かった。とくにコンフォート側は意外と使う頻度も高いため、メーター内にインジケーターが欲しいところではある。

そう、ダンパーのモードを逐一確認したくなるほどで、端的に言えばパサートR36は決して乗り心地重視のクルマではない。細かなギャップだけでなく、舗装のスクラブ感まで伝わってくるような、路面状況がわかりすぎるほどのインフォメーションが中低速域では発せられている。そのため車体は、我慢できる程度ではあるが、微振動や小ピッチが常につきまとう。飛ばす気もない時はダンパーを積極的にコンフォート側にしておきたくなるわけだ。

思えばこの味付けの傾向は、ゴルフGTIに対するR32のそれと似ているかもしれない。ゆったりした流れにおける乗り心地はよくないが、その分、情報の解像度は確実に一枚上手と。これまた端的に言えば、飛ばしてナンボの点数を確信犯で狙ってきている。それがはっきりするのはワインディングや高速道路に入ってからだ。

そういう場所でのパサートR36はまさに水を得た魚というヤツで、ねっとりしたロードホールディングと強烈なスタビリティをベースに、絶大な安心感をもってコーナーを任せられるクルマになっている。ステアリングを45度以上も切り込むようなコーナーでは素直なアンダー傾向も現れるが、基本的にクルマの動きは軽く、かつニュートラルだ。

高速域はこのクルマのもっとも得意とするところで、足をビタッと地面に張り付け、唖然とするほど高い速度を維持しつつ姿勢はあくまでフラットなまま、しゃなりとコーナーをクリアするサマは圧巻でもある。この点、標準モデルのV6 4MOTIONもかなりのレベルにあるが、やはりR36は姿勢変化の少なさやピッチ、バウンドの押さえ込みはひと味違っており、そこにスペシャルモデルならではの高質感や安心感を見いだすことができる。

と、こんなシチュエーションで存在感を示してくるのが後ろ脚の動きだ。高速コーナリング時はしっかりとスタビリティのためにリアが駆動していることがわかるし、2速落としでダッシュを掛ける時などもしっかりと蹴り上げられる感触を伝えてくるほどに仕事をしている。担当エンジニアによれば、ハルデックスカップリングのセッティングはノーマルに対して変更がないという話だったが、標準車より強い作動感を覚えるのは、エンジンのパワーに比例してのことなのかもしれない。

そのエンジンは決して小さくはないこのボディを0→100km/h5.8秒で加速させるほどの力持ちだ。が、実際のデリバリーには危うさや荒っぽさはまったく感じることがない。トゥアレグに搭載されるそれと違って低速トルクは決して太いわけではないが、そこから高回転域へと綺麗にパワーが乗っていく感じは、スポーツユニットとして良好なフィーリングと言えるだろう。ゴルフR32では右ハンドル化による排気取り回しの関係でエキゾーストサウンドが細くなってしまうという変化があったが、パサートR36はその点、決定的な変化を感じることはなかった。やや低めのノートには極端な派手さはないが、十分に力強さと気持ちよさを感じさせてくれるものと言えるだろう。

画像: インテリアはDシェイプのステアリングホイールなど数多くのRシリーズ専用装備が採用されるなど、VWインディビデュアル製ならではの作り込みがノーマルとの違いを際立たせている。オプティカルパーキングシステム、リアビューカメラを装備するなど、日常の使い勝手にも配慮。

インテリアはDシェイプのステアリングホイールなど数多くのRシリーズ専用装備が採用されるなど、VWインディビデュアル製ならではの作り込みがノーマルとの違いを際立たせている。オプティカルパーキングシステム、リアビューカメラを装備するなど、日常の使い勝手にも配慮。

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