高速性能を目指したRシリーズ、高精度を追求したRSモデル
パサートR36を通してRシリーズの位置づけを個人的に測ろうとすれば、「高級というよりも高速」を目指しているという印象が強い。もちろん、内外装に特別なメイクが施されて静的な質感や所有感も高められているが、クルマの動きは低速域で歴然とした標準車との違いが現れるわけではない。とくにシャシに関してはむしろ意志を持って高速側に振り込んでいるという感すらある。
では、対するアウディのSモデルやRSモデルとはどうなのか。改めてRS6アバントに乗って思ったのは、こちらは結果的に高速なアウディではなく「高級な」アウディになっているということだった。あるいは高級という言葉は、高精度とか高品質とか、そういうものにも置き換えられるだろう。
RS6アバントのパワートレーンはご存じの通りガヤルドのユニットをベースにツインターボ化され、580psという途方もない出力を放つV10だ。正直にいえば全く必要性を感じない。こんなものをワゴンに積むという冗談のような狂気が、アウディという会社の中には潜んでいる。それは先代のRS6アバントでも思い知らされていたことだ。間違いなくアウディ史上最も凶暴だったあのクルマは、爆発的なパワーを強烈なトラクション能力で受け止め、路面を削り落としながらなめすように爆進していく、さながら戦車かローラー車のようなクルマだった。
アウディでしか、クワトロでしかあり得ない。そう言わんがばかりの、自信の塊のような壊滅的なドライバビリティは新型RS6アバントでさらに爆発的に増強された。1500rpmで既に発せられる650Nmという強大なトルク、そして580psの途方もないパワーがそのまま逃げる間もなく地面にぶちまけられるそのフィーリングは、たとえば近いパワーを持つAMGの12気筒あたりとは明らかに違うものだ。
一方で新型RS6アバントは、ダンパーをX字に結んでロールやピッチを抑制するダイナミックライドコントロールに、ダンパー本体の電子制御可変システムを組み合わせることで、580psを支えながら標準車にも迫る快適性を身につけるという、極めてダイナミックレンジの広いクルマに仕上がっている。そこにEセグメントワゴンなりの積載力や居住性をそのままオンしているわけだから、そりゃあアウディとしてはR8くらいの値段をもらわんと合わんですよ、というところかもしれない。
両車の性格は異なるがその狙い、目的は同じ
そこで話を戻すと、アウディのSモデルやRSモデルが目指しているのは明らかにスピードとコンフォート、そしてあわよくばユーティリティのすべてを満たすことにある。仮にMやAMGをライバルに見立てるなら、そこで強烈な武器となるのが「クワトロ」というわけだ。とくにRSモデルはこれによって、無尽蔵なパワーウォーズにいくらお付き合いしようが、雨でも平気な顔をしていられる。
そう、S/RSモデルの核心を個人的に挙げるとするならば、それはスピードでもパワーでもなく、他の追随を許さないドライブトレーンだ。たとえ同じクワトロでも基準車からSになれば1枚、そしてRSになれば3枚は動きモノの摺動感が確実に緻密になっていく。センシティブなドライバーならばそのタッチやフィールが、並の量産車では絶対に醸せないものだと気づくことだろう。つまり、「高い機械式時計はゼンマイを巻く時の感触からして違う」、みたいなところに対価を払える人にとってのアウディは、高ければ高いほどいいことは間違いなく、その象徴がS/RSモデルであると。シャシの洗練された化けっぷりにまつわるこの手間暇やお代に比べれば、パワーアップ代などたかが知れている。
確信犯的にスポーティなRシリーズ。結果的に上質なフィーリングのRSモデル。もちろん投じられるコストの問題もあるだろうが、両車の落としどころは異なってはいる。しかし両車とも、パフォーマンスでブランドイメージを高めるという目的は同じ。やはりそこに強く働いているのは、スピードこそ性能の象徴と信じ抜く、ドイツの自動車メーカーの性なのだろう。(文:渡辺敏史/写真:永元秀和)
フォルクスワーゲン パサートヴァリアント R36 主要諸元
●全長×全幅×全高:4820×1820×1490mm
●ホイールベース:2710mm
●車両重量:1770kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3598cc
●最高出力:220kW(299ps)/6600rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5300rpm
●トランスミッション:6速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・68L
●10・15モード燃費:8.8km/L
●タイヤサイズ:235/40R18
●車両価格(税込):590万円(2008年当時)