コンチネンタル GTの内外装を絶妙に彩るブラックのコーディネイト
「ベントレーの装いはボディカラーひとつでガラリと変わる」・・・最新のコンチネンタルGT V8クーペを目の前にして、私はそんな感慨にふけっていた。
シンプルに「アイス」と呼ばれるホワイトのボディカラーは、手で触れると文字どおり「冷たいのでは?」と思わせるほどピュアでスッキリとしている。おかげで、ゴージャスにもカラフルにも表情を変えるコンチネンタルGTのボディが静けさをたたえ、穏やかにたたずんでいる。
しかも試乗車は「コンチネンタルブラックラインスペック」というオプションを盛り込むことでグリルなどがブラックで引き締められており、クールで理知的なコンチネンタルGTのスタイリングにスポーティな要素を付け加えている。未来的なニュアンスが含まれている、と表現してもいいだろう。
インテリアのコーディネーションも、エクステリアとよくマッチしている。ベルーガと呼ばれる落ち着いたブラックのレザーを背景として、同じブラックでも磨き込まれた艶を持つピアノブラックがフェイシアとして用いられており、ふたつの黒が異なった表情を見せてドライバーとパッセンジャーの目を楽しませてくれる。さらに、ここに淡いブルーのステッチを盛り込むことで、キャビンの印象が冷たくなりすぎるのを防いでいる。絶妙なセンスだ。
ベントレーを「買う」ことは、こうした喜びを手に入れることでもある。ボディカラー、レザーの色合い、フェイシアの素材、さらにはステッチのカラーやメタルパーツのナーリング(滑り止め)加工に至るまで、ベントレーは膨大な選択肢をオーナーに提供している。購入する際にはこうした要素のひとつひとつを選び(もちろんディーラーのスタッフからの助言も得られるはず)、世界に1台しかない「自分だけのためのベントレー」を作り出すことになるわけだ。
完成したベントレーが自分の好みどおりに仕上がっていれば、長い歳月を重ねるたびに愛着が深まり、まるで手にしっとりと馴染んだ万年筆や腕時計のように、手放せなくなることだろう。
ドライバーの意思に素早く忠実に反応するパワートレーン
センターコンソール上のボタンを押してコンチネンタルGTに息吹を送り込むと、V8ツインターボエンジンは静かに眠りから覚めた。上質なV8ユニットがすべてそうであるように、アイドリング時の振動は見事に打ち消されており、うなり音ひとつ聞こえない。タコメーターの針を確認しなければ、エンジンが回っていることをうっかり忘れてしまうほど、キャビンは静寂を守り続けている。
路上の流れにおとなしく身をまかせている限り、ドライバーの耳に目立った音は届かない。これが本当に最高速度318km/h、0→100km/h加速を4秒フラットで駆け抜けるハイパフォーマンスカーなのか、と疑いたくなるほどだ。しかし、必要とされていないシーンで自らの存在を大げさに主張しないのがベントレーの流儀。それは高速道路を流していても同じことで、コンチネンタルGT V8は粛々とクルージングを続けていく。
ワインディングロードに到着したところで、少しペースを上げてみる。コンチネンタルGT V8は、それまでとは異なる表情を見せ始めた。アクセルペダルを深く踏み込めば、それに応えるかのようにしてV8ツインターボエンジンは雄弁になり、抜けのいい澄んだエンジン音を車内にも響かせるようになる。もっとも、その音量はスポーツカーに比べるとずっと抑制されたもの。ただ、エンジンの鼓動がより明確に伝わるようになった、と感じる程度のボリューム感なのだ。
それにしても、このV8ツインターボエンジンの心地良いレスポンスをなんと表現すればいいのか。スポーツカーによくある「カミソリのようなレスポンス」とは明らかに異なり、もっと穏やかで扱いやすい反応を示す。それでもドライバーが右足に力を込めると、V8ツインターボユニットは寸分の遅れもなく豊かなトルクを生み出し始める。まるでドライバーがそうすることを、あらかじめ予想していたかのように。
さらにスポーティな感触を味わいたいなら、ドライビングモードをデフォルトのBモードからスポーツモードに切り替えることをお勧めする。ベントレーの推奨セッティングでもあるBモードは、市街地からワインディングロードまで難なくこなす万能性を備えているが、スポーツモードにはコンチネンタルGT V8のエモーショナル性をより高める効果がある。
たとえばギアボックスのシフトスケジュールがSモードに切り替わり、それまでより一段低いギアが選択されるとともに、マフラーの静粛性を高めていたフラップが開くことでエンジン音がよりダイレクトに届くようになる。となれば、ドライバーの鼓動がより速くなったとしても不思議ではなかろう。
スポーツモードをセレクトしたコンチネンタルGT V8は、コーナリング時のボディ挙動が抑えられ、より俊敏な身のこなしを示す。多少ペースを上げた程度なら、あくまでも安定した姿勢を保ち続ける。さらに踏み込んでみると、スポーツモードを選んだことで4WDの前後トルク配分がよりリア寄りとなるため、後輪駆動にも似た、後から押し出されるような感覚を味わえるようになる。
スムーズかつ軽快な身のこなしこそコンチネンタルGT V8の本領
コンチネンタルGTでも、6LのW12ツインターボエンジンを搭載したモデルと比較するとV8モデルは、より軽快でシームレスな加速感、俊敏なハンドリングを味わえる。W12モデルの走り味は重厚さに満ちており、フルスロットル加速はそれこそドラッグスターのように強烈。しかしレブリミットはやや低く、シフトチェンジの時間がわずかに長めなので、加速感には細かな変化がある。この影響もあり、ワインディングロードではV8モデルの方がよりスムーズにコーナリングを楽しめる。
実は、カタログ上の車重はV8モデルとW12モデルとで約30kgしか違わないのだが、車検証で確認すると、オプション装備の違いなどからその差は約100kgに広がる。V8モデルの軽快な身のこなしの印象は、こんなところにも秘密があるようだ。
またコーナリングの性能でいえば、最新のコンチネンタルGTと4ドアのフライングスパーとで、大きな違いはないだろう。ただしフライングスパーはあくまでもサルーンなので、あらゆる意味でドライバーに負担を強いようとしない。いわゆる「エフォートレス(努力を必要としない)な速さ」というタイプだ。
比べるとコンチネンタルGTは操舵系やサスペンションから伝わるインフォメーションが豊かで、クルマとの深い一体感が味わえる。したがって、走りの感触をリアルに楽しみたいのならコンチネンタルGT、4人の快適性を最優先するならばフライングスパーがお勧めとなる。
試乗を終えた帰り道、コンチネンタルGT V8でクルージングしていると、斜めに傾いた陽射しがキャビンの中にさまざまな光と影の文様を浮かび上がらせていた。それを眺めているだけで、心が自然と落ち着いてくる。それは、ベントレーのインテリアが職人たちの手でハンドメイドされているからだろう。
真に人の心を和ませるものは、やはり、人の手の温もりから生まれたものだけなのかもしれない。(文:大谷達也/写真:永元秀和)
ベントレー コンチネンタルGT V8 主要諸元
●全長×全幅×全高:4880×1965×1405mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:2200-2260kg
●エンジン:V8 DOHCツインターボ
●総排気量:3996cc
●最高出力:404kW(550ps)/5750-6000rpm
●最大トルク:770Nm/2000-4500rpm
●トランスミッション:8速DCT
●駆動方式:アクティブAWD
●燃料・タンク容量:プレミアム・90L
●WLTPモード燃費:8.8km/L
●タイヤサイズ:前265/45R20・後295/40R20
●車両価格(税込):2690万円