ボクスターとの差別化をこれまでよりも進めた
シェリー酒、あるいはサーキットで知られるスペイン・ヘレスで行われた新型ポルシェ ケイマンSのプレス試乗会で、まず印象的だったのは、試乗前のプレゼンテーション映像に於いて、356 001から550スパイダー、そしてカレラGTに至るミッドシップ・ポルシェの系譜が大々的にフィーチャーされていたことである。ケイマンシリーズが登場してから今までは、どちらかと言えば新しいカジュアルなポルシェの登場というイメージが強調されていたように思う。しかし、今回はどうも様子が違う。
2005年にポルシェ第4のモデルとして発表されたケイマンシリーズの登場3年目のマイナーチェンジは、先に行われた911のそれと基本的な内容を同じくする。すなわち目玉は新エンジンの採用とPDK=ポルシェ・ドッペル・クップルングの搭載である。
しかし、それらより先にまずは外観についても触れないわけにはいかない。ボディパネルにまで手を入れるような大掛かりな変更ではないが、見た目の第一印象は、これが結構違ったものになっているからだ。
象徴的なのはフロントマスクである。まずはそのヘッドライト。見ての通りカレラGTを彷彿とさせるデザインとされている。バンパーの造形もよりシャープになり、エアインテーク内にはLEDライトが備わる。リアビューも、やはりバンパー形状が変わり、LEDとされたテールランプの輪郭が整えられている。
同時にフェイスリフトされた新型ボクスターシリーズもヘッドライトなどは共通ではあるが、エアインテークの切り方などの細かい点が違うことで、2台の意匠はこれまでより差別化が進められた。さらに言えばケイマン/ボクスターの両車と911とのデザインの距離感も、拡大したという印象だ。思えばカイエンだってマイナーチェンジ後はその傾向にある。もはやポルシェ=911ではないということだとすれば、これはなかなか興味深い流れだ。
では今回の目玉、パワートレーンについてはどうか。まずエンジンはケイマン、ケイマンSともに911でデビューした新設計ユニットへと一新された。
これは水平対向6気筒DOHCという形式と118mmというボアピッチ以外、ほぼすべてが新しいと言っても過言ではないものである。たとえばシリンダーブロックは従来の4分割構造から2分割構造とされ、高剛性のクローズドデッキ構造を採用。タイミングチェーンが2本から1本にまとめられたことで、その駆動用の中間シャフトも廃止されている。当然それは軽量化に繋がり、シリンダーヘッドの部品点数削減なども合わせて全体で6kgの重量軽減を達成。オイルポンプに燃費に貢献するオンデマンド式が採用されるなど、補機類も最新のものにアップグレードされている。
エンジンはパワーアップと燃費向上を見事に両立してみせた。ケイマンSが積む排気量3.4LのDFI=直噴ユニットは、最高出力320ps/7200rpm、最大トルク370Nm/4750rpmと、従来モデルより25ps、30Nm向上している。一方、ケイマン用は直噴化は見送ったものの排気量を2.9Lとし、最高出力265ps/7200rpm、最大トルク300Nm/4400〜6000rpmと、やはり20ps、27Nmアップを実現した。それでいて燃費はケイマンSのPDKで9.2L/100km(EU総合モード)と16%も改善されているのだ。
不思議なのは、なぜケイマンは直噴化されず排気量が大きくなったのかということだが、端的に言えばそれは効率の問題だろう。ボア×ストロークを見ると、ケイマンSの3.4Lが97.0×77.5mmなのに対して、ケイマンの2.9Lは89.0×77.5mmと、実はストロークは両方一緒。つまり2.7Lに留めるべく別のクランクシャフトを設計してさらに直噴化するより、排気量を上げてしまって、その余裕を性能と燃費の向上に回した方が効率的だろうという話である。もっともポルシェは、絶対にコストという言葉は使わないが。
ちなみに77.5mmのストロークは911カレラS用3.8Lも同じ。そしてケイマンS用3.4Lの97mmのボアはカレラ用3.6Lと同じで、この2機種はバルブ径も共通とされている。徹底的なモジュラーユニットなのだ。