スポーツカーとしての資質にも磨きがかかった
PDKの印象は、911と変わるところはない。Dレンジでのマナーは完璧だが、ステアリングシフトスイッチの独創的な操作ロジックには大いに疑問あり。スポーティに走らせたいなら、スポーツクロノパッケージ・プラスは必須というところも含めて共通である。ちなみにヴォーラー氏の吐露するところによれば「それは上ですでに決まっていたことで、私が口出しできることではないんだ」ということであった。
パワートレーンは、ケイマンシリーズとボクスターシリーズでエンジンスペックに差がつけられているのも興味深いポイントだ。ケイマンシリーズが最高出力で10ps上回るのは、バリオカム・プラスと可変吸気システムのチューニングによるもので、「ボクスターはオープン走行を満喫できるように実用域のトルクを重視した」ということである。ここにも外観同様、ふたつのモデルをより差別化するという方向性が見てとれる。当然、価格差の理由付けという意味も、そこには込められているはずだ。
この新しいケイマンS、もちろん進化は期待していたものの、正直ここまでスポーツカー濃度を高めてくるとは予想していなかった。おかげでこの日は、何台もクルマを乗り換えて日が暮れるまで走り回ってしまった。この走りには、GT2用フルバケットシートにPCCB付きなんてハードな仕様も、まるで違和感なく感じられたほどだ。ちなみにバネ下重量が大幅に軽くなるPCCBとセットなら19インチも乗り心地含めまったく問題なし。
とくに911用と同じくフローフォーミング製法リムを採用した、同サイズの中でもとりわけ軽量なカレラSホイールとの組み合わせは、価格を度外視すればベストと思えたことも付記しておこう。先にも書いた通り、もちろん世界観は911とは違うが、それは上下関係ではなく、それぞれに違った個性、面白さがあったのである。
今回のモデルチェンジは、ポルシェの中でのケイマンシリーズの立ち位置をより明確にするものだと言えるだろう。これまではライフスタイル的側面が強調されていたが、新型は、そうした「らしさ」を損なうことなくスポーツカーとしての資質にも磨きをかけてきた。
ミッドシップの系譜を持ち出すなど、アピールも明快だ。方向転換? いや、当初から計算尽くだったに違いない。この3年でケイマンシリーズの存在感は世に十分に知れ渡り、911とは違うユーザー層が形成されつつある。ポルシェ本来のスポーツ性を前面に出すのはそれから。きっと、そういう計画だったのだろう。
すでに911と比較されることはなく、ましてやボクスターのクーペ版と言われることもなく、ケイマンはケイマンとして受け止められている。そんな中で行われたフェイスリフトは、市場やユーザーのマインドにピタリとはまる、まさに絶妙の内容だった。
これは卓越したマーケティングとテクノロジーの両輪が揃わなければ、実現できなかったことのはずだ。そう考えると新型ケイマンは、すでにブランドの確立している911やボクスター以上に、ポルシェの実力が発揮されたプロダクトと言ってもいいのかもしれない。まったく、いつもながら脱帽である。(文:島下泰久)
ポルシェ ケイマンS 主要諸元
●全長×全幅×全高:4347×1801×1306mm
●ホイールベース:2415mm
●車両重量:1350kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3436cc
●最高出力:235kW(320ps)/7200rpm
●最大トルク:370Nm/4750rpm
●トランスミッション:7速DCT(PDK)
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・65L
●EU総合燃費:10.9km/L
●タイヤサイズ:前235/40ZR18、後265/40ZR18
●最高速:275km/h
●0→100km/h加速:5.1秒
●車両価格:877万円
※欧州仕様