ミッドシップであることの価値と由来をアピール
ポルシェというブランドは、実に巧みなプロダクトマネージメントを行っていると思う。各モデルごとのポジショニングを明確に定めて、それぞれにここまでの性能と魅力、そして価格を与える、という意志が各車から強く感じ取れるのだ。
新型ケイマンと同時に、大がかりなフェイスリフトが実施された新型のボクスター。イタリア南端にあるシシリー島で開催された国際試乗会で新型ボクスターSのハンドルを握りながら、改めてそのことを強く印象づけられた。
折り悪しくも、暴風雨が襲来した直後に訪れることとなったシシリー島。ここは、1956年に550Aスパイダーでポルシェが初優勝を遂げて以来、世界選手権最後のシーズンとなった1973年に911カレラRSRが優勝を収め、ポルシェが合計11回もの総合優勝記録を残した伝説の公道レース「タルガフロリオ」の舞台となった島であり、同社にとってもゆかりの深い地である。
試乗のスタート地点となったパレルモ空港の駐車場には、色とりどりのボディカラーをまとった新型ボクスターが勢揃いしていた。
全車、まったくの新設計でDFI(ダイレクトフューエルインジェクション)化され、従来型より15ps/20Nmも引き上げられた310ps仕様の新しい3.4Lフラット6エンジンを搭載するボクスターSモデルだ。
すべてデュアルクラッチ式トランスミッションの7速PDKを装備しており、可変サスペンションシステムであるオプション設定のPASM(ポルシェアクティブサスペンションマネージメントシステム)も装着されている。これはやはり、モデルが備える最高のパフォーマンスをまず最初に感じ取ってもらいたい、という狙いなのだろう。
新しくなったフロントマスクをしげしげと見つめる。新型ケイマンと同じく、インジケーターライトが組み込まれた「カレラGT的な」新しいヘッドライトが、これまでのボクスター的な価値観からの変化を主張している。
ボクスターというモデルに対しては(ケイマンもそうだが)、そこでいかに1948年デビューのポルシェ第一号車である356ロードスターから流れるミッドシップスポーツモデルのDNAがアピールされようとも、911を彷彿とさせたフロントデザインの印象が強く「911の弟分としてのミッドシップスポーツモデル」というイメージを抱いていた。
だが今回のフェイスリフトでは、911とは異なるモデルとしてハッキリ独立させたいという、路線変更への強い意志が感じ取れる。
度重なる排気量アップなどで、パフォーマンス的に接近せざるを得なくなってきたボクスター/ケイマンシリーズと911の関連性を薄め、カレラGTを頂点とするミッドシップスポーツモデルならではの存在意義を強調していく、というマネージメントなのであろう。
そしてそのことは、実際に乗ってみても感じられた。エンジンに火が入ると、力強く刺激的なサウンドが耳に響く。隣の試乗チームが軽くブリッピングさせているが、レーシングマシンを彷彿とさせる系統にある、いかにも「スポーツカーらしいサウンド」が作りあげられている。
またドライバーズシートで聞く自車のエンジン音も、運転席とエンジンが近いせいもあるのだろうが、911よりも生々しく感じられる。