2008年11月、2代目ポルシェ ボクスター(987型)に大幅改良が施された。デュアルクラッチ式の新設計トランスミッション(PDK)と新設計エンジンの採用に注目が集まったが、もっと重要なのはポルシェの中にあってそのポジショニングや性格づけを明確にすることだった。ではこの時、ボクスターは独自の魅力をどうのように磨きあげたのか。イタリア・シシリー島で行われたボクスターSの国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年4月号より)

ミッドシップであることの価値と由来をアピール

ポルシェというブランドは、実に巧みなプロダクトマネージメントを行っていると思う。各モデルごとのポジショニングを明確に定めて、それぞれにここまでの性能と魅力、そして価格を与える、という意志が各車から強く感じ取れるのだ。

新型ケイマンと同時に、大がかりなフェイスリフトが実施された新型のボクスター。イタリア南端にあるシシリー島で開催された国際試乗会で新型ボクスターSのハンドルを握りながら、改めてそのことを強く印象づけられた。

折り悪しくも、暴風雨が襲来した直後に訪れることとなったシシリー島。ここは、1956年に550Aスパイダーでポルシェが初優勝を遂げて以来、世界選手権最後のシーズンとなった1973年に911カレラRSRが優勝を収め、ポルシェが合計11回もの総合優勝記録を残した伝説の公道レース「タルガフロリオ」の舞台となった島であり、同社にとってもゆかりの深い地である。

試乗のスタート地点となったパレルモ空港の駐車場には、色とりどりのボディカラーをまとった新型ボクスターが勢揃いしていた。

全車、まったくの新設計でDFI(ダイレクトフューエルインジェクション)化され、従来型より15ps/20Nmも引き上げられた310ps仕様の新しい3.4Lフラット6エンジンを搭載するボクスターSモデルだ。

すべてデュアルクラッチ式トランスミッションの7速PDKを装備しており、可変サスペンションシステムであるオプション設定のPASM(ポルシェアクティブサスペンションマネージメントシステム)も装着されている。これはやはり、モデルが備える最高のパフォーマンスをまず最初に感じ取ってもらいたい、という狙いなのだろう。

新しくなったフロントマスクをしげしげと見つめる。新型ケイマンと同じく、インジケーターライトが組み込まれた「カレラGT的な」新しいヘッドライトが、これまでのボクスター的な価値観からの変化を主張している。

画像: LEDが採用されたテールライト、リアデフューザー、エキゾーストテールパイプなどのデザインが一新された。このモデルは、オプションのセラミックブレーキシステム(PCCB)を装備していた。

LEDが採用されたテールライト、リアデフューザー、エキゾーストテールパイプなどのデザインが一新された。このモデルは、オプションのセラミックブレーキシステム(PCCB)を装備していた。

ボクスターというモデルに対しては(ケイマンもそうだが)、そこでいかに1948年デビューのポルシェ第一号車である356ロードスターから流れるミッドシップスポーツモデルのDNAがアピールされようとも、911を彷彿とさせたフロントデザインの印象が強く「911の弟分としてのミッドシップスポーツモデル」というイメージを抱いていた。

だが今回のフェイスリフトでは、911とは異なるモデルとしてハッキリ独立させたいという、路線変更への強い意志が感じ取れる。

度重なる排気量アップなどで、パフォーマンス的に接近せざるを得なくなってきたボクスター/ケイマンシリーズと911の関連性を薄め、カレラGTを頂点とするミッドシップスポーツモデルならではの存在意義を強調していく、というマネージメントなのであろう。

そしてそのことは、実際に乗ってみても感じられた。エンジンに火が入ると、力強く刺激的なサウンドが耳に響く。隣の試乗チームが軽くブリッピングさせているが、レーシングマシンを彷彿とさせる系統にある、いかにも「スポーツカーらしいサウンド」が作りあげられている。

またドライバーズシートで聞く自車のエンジン音も、運転席とエンジンが近いせいもあるのだろうが、911よりも生々しく感じられる。

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