パワーやサイズなど、スペックが4モデルでほぼ共通
4台の最高出力を合計すると、なんと2362ps! 1台あたり600psオーバーのパワーを生み出す「スーパーSUV」がこんなにもたくさんある驚きの事情について、ちょっと考えてみた。
SUVが全世界的に人気であることはご存じのとおり。そのオーナーは、たとえばオフロード性能だったり背の高さだったりが必要でSUVを購入しているケースももちろんあるだろうが、「セダンやワゴンじゃない、もうちょっと新しいクルマ」が欲しくてSUVを買う向きも少なからず含まれているように思う。
そういった人々は、今までにないデザイン、今までにない装備、今までにないスペックを持つSUVが出ると、あたかも鉄が磁石に吸い寄せられるようにして買い求める傾向があるようだ。そして自動車メーカーもそのことをよく承知しているから、まるでスーパースポーツカーのような性能を持つスーパーSUVを続々とリリースしているのだろう。
今回紹介するスーパーSUVは、いずれもそういったニーズから生まれたモデルと考えられるが、それ以外にも多くの共通点がある。
たとえば、搭載されるエンジンがどれも排気量4.4LのV8ツインターボである点は、その最たるもの。多少のバラツキはあるものの、全長約5m、全幅約2m、全高約1.7mm、ホイールベース約2.9m、車重約2.4トンといった諸元も4台に共通している。もちろん4台ともフルタイムイム4WD。興味深いのは、本国発表の0→100km/h加速タイムが3.8秒でぴったり揃っている点で、もしかしたら業界の談合でもあるんじゃないかと勘ぐりたくなるくらいだ(もちろん、そんなものは絶対にないはずだが・・・。)
ちなみに4台のグローバルな発表は2019年8月から12月で横並び。国内リリースはカイエンのみグローバルと同じタイミングで、それ以外は2020年に集中しているものの、カイエンは2020年10月にPHEV用バッテリーの容量拡大を発表しているので、実質的には4台とも「ここ1年間で発売されたイキのいいモデル」と思っていただいて間違いない。
反対に明確に異なっているのはカイエンのみPHEVとされている点。このため車両価格は他の3台より400万円近く高い2400万円台となっている。なお、GLE 63 SとRS Q8はマイルドハイブリッドを装備しているが、X6 Mはそれさえ持たない。
エアサスペンションが標準となるこのクラスで、X6 Mのみメカニカルなサスペンション、スプリングを装備しているのも興味深いところ。ちなみに4WSはRS Q8のみ標準装備でカイエンはオプション(試乗車は装備済み)、ほかの2台はオプションでも4WSは選択できない。
4台揃ってフルタイム4WDであることは前述したが、トルク配分は電子制御油圧多板クラッチ式が一般的となっている中、フルタイム4WDで長い歴史を誇るアウディのみトルセンタイプCにこだわっているのも面白いところだ。
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GLEとX6 Mのキャラクターは対照的
ここからは1台1台の特徴と私のショートインプレッションを順に紹介することにしよう。
4台の中で、一番の新着モデルはメルセデスAMG GLE 63 S 4MATIC+(以下、GLE63)だろう。GLEはAMGのシリーズとして初めてISGを搭載したモデル。モーター出力は22ps、トルクは250Nmだが、それを除くエンジン単体で生み出す612psと850Nmのパフォーマンスは、いずれも4台中トップに位置する。
もっとも、だからといってGLE 63が段違いに速いとは感じない。その理由はAMG製V8ユニットが例によってフラットトルク型で、そのリニアリティの高い出力特性ゆえに扱いやすい点にある。一方でエンジン音は往年のアメリカンV8を髣髴とさせるもので、音量的には4台中、もっとも大きいように感じた。
足まわりは、低速域の小入力に対しては極めてソフトだが、大入力や大ストロークに対してはかなり硬い手応えを感じさせるタイプ。このため細かいコーナーが連続するセクションではピッチング方向の動きが定まらず、クルマの姿勢を見極めてからコントロールする必要があるものの、たとえば高いGが長く続く高速コーナーは得意そう。その意味ではいかにもドイツ的といえるかもしれない。
内外装のデザインはメルセデスそのもの。例によってMBUXの操作性、そして運転支援システムの完成度は極めて高い。ちなみに、試乗車のSUVボディ以外にクーペボディも用意されている。
このGLE 63と対極のキャラクターといえるのがBMW X6 Mコンペティション(以下、X6 M)。4台中、唯一エアサスペンションを装備していないこともあって、硬めのサスペンションは市街地でもゴツゴツとした感触を明確に伝える。ただし、この逞しい足まわりがワインディングロードでは強力な武器となる。
GLE 63と違って荷重移動が素早くピタリと決まるので、日本の狭いワインディングロードでも俊敏にノーズの向きを変えられるうえ、少し大げさにいえば走行ラインをミリ単位でコントロールできる。しかもスタビリティが高く、4台の中では後述するカイエンと並んでもっとも安心してコーナーを攻められる。ちなみに前後重量配分はBMWらしく51:49。これに加えてボディが極めて強固なことも、X6 Mのスポーティなハンドリングに貢献しているはずだ。
ただし、X6 Mはクーペボディのため、後席ヘッドルームが限定的。したがって室内空間を重視する向きは、SUVボディで基本的なスペックが共通なX5 Mを選ぶといいだろう。一方、ダッシュボードまわりのデザインは保守的で、Mモデル特有のシフトパターンやプリセット式モード切り替えは慣れないとちょっと扱いづらいかもしれない。ただし、3眼式カメラを用いた運転支援システムは作動が滑らかで安心感が高かった。
ちなみにX6 MはSUVの最大市場でもあるアメリカのスパルタンバーグ工場製。ただし、エンジンはドイツのミュンヘンから運ばれ、そこで1台のクルマとして仕上げられる。これはGLE 63の「エンジンはAMGの本拠地があるアファルターバッハ製でアセンブリーはアメリカのタスカルーサ工場」という成り立ちと奇しくもそっくりである。