MTでヒール&トウはスポーツドライビングの醍醐味
最終回は、改めてМT車のドライビングを考えてみたい。MT車ではクラッチワークだけでなく、アクセルとの連携が大事になる。シフトアップひとつを取ってみても、アクセルオフしてクラッチを切ってチェンジすればいいと思いがちだが、スムーズなシフトアップとなると、ちょっとコツがいる。
![画像: コンベンショナルなHパターンの3ペダルは、今や少数派になってしまったが、その楽しさは何物にも替えがたい(写真はロータスエリーゼ)。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2021/07/30/132470aea0959f2b3125b6e9eb8d1a507385e2f1_xlarge.jpg)
コンベンショナルなHパターンの3ペダルは、今や少数派になってしまったが、その楽しさは何物にも替えがたい(写真はロータスエリーゼ)。
MT車に乗り始めた人が1速から2速にシフトアップしたときに変速ショックが出ると悩む場合がある。通常ならば走り出したらすぐに2速に入れればいい、というアドバイスになるのだろうが、スポーツドライビングのように高回転まで引っ張りたいときは、それでは困る。こういう場合、そのスピードで一段上のギアに合ったエンジン回転に合わせればいいというのが正解だ。
変速ショックが出る原因は、シフトアップの時、完全にアクセルを戻してしまうところにもある。シフトアップでアイドリング近くまでエンジン回転が落ちてしまうと、クラッチをつないだときにエンジン回転引っ張られる形でスピードが落ちる。だからそんなときは難しく考えないで、クラッチを切って、アクセルをちょっと踏み加減で2速につなげば変速ショックが少なくなる。
これの応用とも言えるのが、レースで一発タイムを出す時に使用する場合があるアクセル全開シフトアップだ。シフトアップのときにエンジン回転が下がるのはタイムを出すのに不利だ。だったらアクセル全開のまま素早くシフトアップすればいいし、エンジン回転が跳ね上がる分の加速も期待できる…。ただし、トランスミッションへの負担が大きいので覚悟が必要だ。
次にダブルクラッチを考えてみよう。もちろんシンクロメッシュ式となった今のМT車では事実上不要と言えるが、ちょっと掘り下げて考えてみたい。シフトダウン時のヒール&トゥと、ダブルクラッチを使ったヒール&トゥとの混同も見られるようなので、その辺もここで整理してみよう。
![画像: シンクロの性能が悪い、あるいはもとから付いていないトランスミッションの場合にはダブルクラッチが有効になる。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2021/07/30/68a586d975e8b9a2dc6db4702ebe6ac8f59f7120_xlarge.jpg)
シンクロの性能が悪い、あるいはもとから付いていないトランスミッションの場合にはダブルクラッチが有効になる。
前者のやり方は、ブレーキを踏みながら、クラッチを切るのとほぼ同時にアクセルをかかとでブリッピングしシフトダウン終了後にクラッチをつなぐ。要はタイヤからトランスミッションに入ってくる回転とエンジンの回転をブリッピングで合わせるわけだ。
これにダブルクラッチを組み合わせると、クラッチを切りギアをニュートラルにして、いったんクラッチをつなぐと同時にブリッピングし、もう一度クラッチを切ってシフトダウン後クラッチをつなぐことになる。
![画像: イラスト:きむらとしあき](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2021/07/27/e2333e27bd02b5d655c5dee8cb5ed7552381f839.jpg)
イラスト:きむらとしあき
このときどうしてニュートラルでクラッチをつなぐのかというと、エンジン回転ではなく、トランスミッション内の回転を合わせるためだ。クラッチを切るとトランスミッション内のエンジンからのインプットシャフトの回転が落ちる。その時、クルマが動いていればタイヤ側につながるアウトプットシャフトは回転しているから回転差が大きくなってしまう。
そこで一度クラッチをニュートラル位置でつなぐとインプットシャフト側が回転する。こうして回転差を少なくしギアを入りやすくする。これはシンクロメッシュがある現代のトランスミッションでも同じことだ。
ちなみにシンクロメッシュはギア同士(実際にはシフトフォークに動かされるスリーブとギアのスプライン)を摩擦クラッチを使ってこすり付けることで回転を同調させている。つまりダブルクラッチと同じように回転差を少なくして、ギアを入れやすくしているとも言える。
ニュートラルでのブリッピングはタイヤの回転スピードと下のギアのエンジン回転を合わせることだから、ダブルクラッチを併用した場合には、二種類の回転を合わせているとも言い換えられる。それぞれが独立したテクニックだ。中にはヒール&トゥのときのブリッピングはギアを入りやすくするためのものと思い違いしている人もいるようだが、それは間違いとなる。
ブリッピングの意味から考えると、たとえば普段運転している低中速時にエンジンブレーキで減速したいならば、空ぶかしなしでシフトダウンすればいいし、高速道路などでシフトダウンして前車を追い越したいなら、空ぶかしを入れてスピードを落とさず、素早く加速に移るなどのテクニックのバリエーションも生まれる。
ヒール&トウは、慣れでなんとかなるテクニック。クラッチをつなぐときにエンジン回転が落ちきらないようにするのが最大のポイントだ。
ダブルクラッチをしながらのヒール&トゥは、ビンテージカーのようなシンクロレスか、シンクロのへたったトランスミッションのときに使用するテクニックとも言えるが、回転差の大きい2速から1速へのシフトダウンなどでは有効な場合もある。ジムカーナやダートトライアルなどのコース設定でよくあるパターンだが、トランスミッションへの負担が大きく、シンクロメッシュも摩擦するものだから無理やり入れると痛む。
かつてジムカーナで何度もチャンピオンを取ったトップドライバーが、2速から1速へのシフトダウンでダブルクラッチを使っていたのをビデオで見たことがある。それが強い印象となり、私もダートトライアルで2速から1速に落とすときには使うようになった。
それ以降、自分なりにスムーズなシフトダウンができるようになったし、ミッショントラブルとも無縁だ。そういう意味で、できて損のないテクニックだと考える。(文:Webモーターマガジン:飯嶋洋治/イラスト:きむらとしあき/写真:日産自動車、BMW、Lotus Cars)