徹底したキャラクター分け、それは性能の近さも意味する
実際に335iクーペとM3クーペを目前にすると、まずはその見た目の雰囲気が大きく異なることに改めて驚かされる。
「ドア以外のパネルはすべてオリジナルデザイン」というM3のボディは、「パワードーム」と称する大きなフードバルジやマッシブなフェンダーなどで、335iクーペを確実に凌ぐダイナミックな印象を見る人にアピールする。さらに、太いタイヤや4本出しのテールパイプ、カーボンファイバー製のルーフや2本の支柱で支えられた(ように見える)ドアミラーといったディテールのデザインが「このモデルはただ者にあらず」という迫力を演じる大きな要素になっている。
それゆえに、こうしたオリジナリティ溢れるルックスに強い魅力を感じるという人が現れる一方で、「こんな繊細さに欠ける雰囲気はイヤだ」という人が生まれることも避けられないだろう。すなわち、335iクーペとM3クーペは、すでにこうしたルックスの点で「相容れない存在」なのだ。
仮に、この両者の走りのパフォーマンスがまったく同一だとしても、その顧客層は明確に分かれることになるだろう。M3の、ちょっとばかり「これみよがし」の雰囲気も漂う各部の化粧には、そんな思いも込められているのではないだろうか。一見は同じようでいて、実は明確に異なるデザインは、BMW社とM社の綿密なマーケティングの結果にも基づいているはずだ。
さて、そんな両者の最新モデルにそれぞれ設定されたDCT(デュアルクラッチトランスミッション)は、実は構造的には同一のユニットだ。サプライヤーはゲトラグ・フォード社で最大トルク容量は520Nm。9000rpm(!)までのエンジン回転数に対応するという。
が、335iとM3に搭載のそんなDCTユニットが、カタログ上ではそれぞれ「7速スポーツAT」、「M-DCT」と敢えて呼び名を変えている点に注目したい。結論から先に言えば、335iのそれは「あくまでもAT」で、一方のM3では「発展型のMT」という扱いなのだ。
そうしたキャラクターの違いを象徴しているのが両車のブレーキペダルのデザイン。335iには既存のAT車が採用してきた幅広タイプが用いられる一方、M3では幅の狭い通常のMT用をそのまま流用する。
また、生粋のスポーツモデルとしてのキャラクターが与えられるM3では、変速制御を任意に変更できる「ドライブロジック」が付加されるのに対して、335iにはそうした可変プログラムは用意されていない。
さらに、335iでは通常のAT車同様のクリープ現象が発生するのに対して、M3はそれが敢えて消されているといった違いもある。基本ユニットは共有しつつも、操作ロジックやプログラムをここまで変更するというのは、他のメーカーでは考えられないことだろう。