M3に匹敵するパフォーマンスを持つBMW 335iクーペに、2009年、M DCTのメカニズムに近い7速スポーツATが搭載された。これによって335iクーペはM3クーペにさらに近づいた。ではその走り味はどうなのか。Motor Magazine誌ではM3クーペと比較しながら、335iクーペはどんなクルマなのか探っている。ここではその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年4月号より)

興味深い操作ロジックの違い

日本初上陸となった、「7速スポーツAT」を搭載する335iクーペで走り始めてみる。なるほどこのモデルの走りは、オーソドックスなトルコン式ATに対する違和感を消し去ろうと尽力したことが実感できる仕上がりだ。

前述のように、M3では静止後アクセルペダルを軽くクリックしないと発生しないクリープ現象が、こちらではブレーキペダルのリリースで発生。それによる前進(後退)力は一般的なトルコンAT車に比べるとやや弱めだが、ブレーキ力を緩めると同時にタイムラグなく発生するので、トルコン車から乗り換えの多くの人もまず違和感を覚えることはないだろう。

一方で、トルクコンバーターによるトルク増幅効果が望めないこともあってか、スタートの瞬間の力感は想像していたよりも優しいものだった。むろん、アクセルペダルを踏み込めばわずか1500rpm付近から早くもターボブーストの効いた力強いトルク感が味わえるのだが、この部分でトルコン車との差を感じる人はいるかも知れない。けっして「加速が鈍い」わけではないのだが、かすかな違和感と受け取られる可能性はあるように思う。

変速動作のスムーズさ、そして、パドル(もしくはフロアのシフトレバー)にコマンドを入力してから、実際に変速が行われるまでのタイムラグの小ささは文句ナシだ。タイムラグは、むしろM3よりも小さいようにさえ思える。M3の「M-DCT」はマニュアル操作でシフトを行った際のタイムラグが、時に気になる場面があるからだ。

ところでここでも、両者には興味深い操作ロジックの差別化がある。

ステアリングホイールに設けられたパドルによるシフト方法が、M3での「右パドルを引いてアップ/左パドルを引いてダウン」というものに対して、335iは「左右パドルは操作法が対称で、引いてアップ/押してダウン」とされていることだ。そもそも、BMW社とM社は血縁関係にありながら、時に異なる意見を押し通そうとする場面が見受けられる。

例えばランフラットタイヤやアクティブステアリングなどBMW社が最先端のアイテムと位置づけたものを、M社は「それはウチの考え方には合致をしない」と採用を拒む例が少なくない。シフトパドルのデザインに対する考え方もこれと同様ということだろう。ちなみに、M社が前述の方式に拘るのは「モータースポーツの世界ではそれが当たり前だから」という理由によっている。

BMWの、とくに6気筒エンジンが生み出すフィーリングの良さはつとに有名なポイントだが、そのテイストを余すところなく堪能できるのは「スポーツAT」の所以だろう。「それでも、ギアのセレクトはやはり自分の手で行いたい」と今でもオーソドックスなMTを熱望する人の気持ちもわからないではないものの、こうしたトランスミッションを知ってしまうと「それはもはや時代遅れなのかも」という一節を自問自答したくなってくるのもまた事実だ。

それにしても、この2台のここまで徹底したキャラクター分けへの拘りぶりには脱帽だ。その拘りとはもちろん、俊足ながらもあくまでも優雅なプレミアムモデルを演じようという335iクーペと、刺激に富んだ走りこそがその使命というM3クーペというものである。(文:河村康彦/写真:小平 寛)

画像: 335iクーペ。スポーティなスタイリングはM3クーペと共通のイメージ。コンセプト、狙いは同じベクトルにあるということだろう。ただ写真では同様に見える外観も、実物を見れば、雰囲気が大きく異なることに改めて驚かされる。

335iクーペ。スポーティなスタイリングはM3クーペと共通のイメージ。コンセプト、狙いは同じベクトルにあるということだろう。ただ写真では同様に見える外観も、実物を見れば、雰囲気が大きく異なることに改めて驚かされる。

BMW 335i クーペ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4590×1780×1380mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:直6 DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:225kW(306ps)/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:7速DCT(7速スポーツAT)
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:8.9km/L
●タイヤサイズ:前225/45R17、後255/40R17
●車両価格:713万円(2009年当時)

BMW M3 クーペ(M DCT Drivelogic) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4620×1805×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1650kg
●エンジン:V8 DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:309kW(420ps)/8300rpm
●最大トルク:400Nm/3900rpm
●トランスミッション:7速DCT(M DCT Drivelogic)
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:8.0km/L
●タイヤサイズ:前245/40ZR18、後265/40ZR18
●車両価格:1063万円(2009年当時)

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