スペックVに1575万円の価値はあるのか
衝撃、再び・・・。一昨年(2007年)秋の日産GT-Rの復活が世間にもたらしたインパクトは、単なる1台の新車のデビューという枠に留まらない大きなものだった。
ドイツ・ニュルブルクリンク・サーキットでのラップタイムが物語る、世界のスポーツカーの勢力図を塗り替える怒濤のパフォーマンスはもちろん、これまでに例のない体制で行われた徹底的に妥協を排したモノづくりという面でも、多くの話題をふりまいた。それはクルマという枠組みさえ超えて、世界の中での存在感が沈下傾向にある日本の製造業の底力を示したという意味でも、大きな意味を持っていたと言えるだろう。
そんなGT-Rの開発を指揮する水野和敏チーフプロダクトスペシャリスト自らが、発表時から存在を公言していたモデルが「スペックV」である。それがR32からR34までの「第2世代」GT-RのVスペックと違うのは、氏によれば、レーシングカー的な走りをピュアに追求した仕様であり、日常使用より普段はサーキットに置いておくようなクルマだということにある。
そんな「スペックV」が、2009年1月、遂に姿を現した。その概要については、すでに色々なところで報告されているが、念のため軽くおさらいしておこう。
最大の特徴が、カーボンセラミックブレーキの採用だ。制動力を高めバネ下重量の軽減に効果を発揮するこのNCCB(Nissan Carbon Ceramic Brake)は、これまでの市販車用カーボンブレーキとは違い、雨天・低温・低速時の制動性能を確保しつつレーススペックの制動性能を獲得したと謳う。重量も1輪当たり5kgもの大幅な軽量化に繋げている。ローター/パッドの補修部品価格が1台分合計470万円にも達するということでも話題を呼んだ、スペックVのキモである。
他にも専用ホイールの採用やリアシートレス化、カーボンバケットシートの採用、フロントアンダーカバーやリアスポイラーなどへのカーボン素材の使用などによって、車両重量は合計60kg減となっている。
正直、60kgという数字だけではさほどの驚きはないが、バネ上の、とくに重心より高い位置の軽量化に留意することで、高い効果を得ているというのが公式なコメントだ。
シャシはサーキット走行に特化した方向に煮詰められている。ビルシュタイン製ダンパーは減衰力固定式の専用スペックとなり、スプリングレートもアップ。スタビライザーやアライメント数値、さらにはエンジンマウントなども専用の設定とされている。タイヤも、ブリヂストンRE070Rランフラットという銘柄は同じだが、その中身はコンパウンド、パターン、そして構造まで別物とされているという具合である。
一方、エンジンのスペックは変わらない。最高出力は昨年(2008年)のマイナーチェンジで5ps高まった485psのままだ。しかしスペックVでは必要な時に過給圧を一時的に高めるハイギアードブーストなる機能を搭載。スイッチを入れると約80秒間、3500〜5000rpmの領域でトルクを増強させることが可能となる。スイッチオン時の最大トルクは通常時の60kgmから62kgmまで高まる。また、チタンエキゾーストシステムも、スペックV専用だ。
しかし正直な印象として、この変更点を見ただけでは、水野氏の言う「サーキットに置いておくようなクルマ」的なスパルタンさは、それほど感じられはしない。しかしながら、その車両価格は1575万円と、ベース車のざっと2倍近い。果たしてスペックVとは、それだけの価値があるクルマなのだろうか。