内燃機関の長い歴史の中にあって、乗用車用としては圧倒的少数派であったV型10気筒エンジン。
野趣にあふれるも複雑なハーモニーが、ドライバーを陶酔の極みへと導く。(Motor Magazine2021年11月号より)

V8とV12のいいとこどり。ランボルギーニ V10の魅力

レブカウンターの針が5000rpmを超えた時、V10エンジンの発する熱量がいちだんと高まったように感じた。それまでの「ウォーン」というエキゾーストサウンドのピッチが高音側にシフトし、よりダイレクトに聞き手の心を揺さぶるようになったのだ。

さらに6000rpmを超えると、エンジンが奏でるハイノートに微妙なバイブレーションが加わり、ドライバーの聴覚を激しく刺激し始めた。

聴覚だけではない。V10エンジンの発する鼓動はドライバーの全身を包み込み、力ずくで異次元の世界へ連れ去ろうとする。その、有無をいわさぬ迫力に身体中からアドレナリンがあふれ出し、これがさらなる官能性を生み出していく。しかも、泣き叫ぶようなメカニカルノイズは100rpmごとにその緊迫の度合いを高め、レッドゾーンが始まる8500rpmめがけてドライバーを陶酔の極みへと導いていくのだ。

V10エンジンこそはランボルギーニ ウラカンの真髄だ。そのことは、ウラカンの誕生を伝えるプレスキットのなかで、次のように説明されている。

「ほかのすべてのランボルギーニ製エンジンと同じように、排気量5.2LのV10ユニットも高性能を誇り、自然吸気方式を採用しています。このエンジンは鋭いスロットルレスポンス、8000rpmを超えても留まることなく回り続けようとするキャラクター、そして回転を上げていくごとに表情を変えていくユニークなサウンドによってドライバーを魅了します。さらに、エキゾーストサウンドはふくよかな低音成分と突き抜けるような高音成分で構成されています」

ところで、V10エンジンのアイデアはアウディからもたらされたのではなく、もともとランボルギーニが考案したものであることをご存じだろうか?

ランボルギーニがアウディによって買収されたのは1998年のこと。しかし、ランボルギーニ初のV10モデルであるP140が発表されたのは、これを10年も遡る1988年のことだった。

V8エンジンを積んでいたジャルパの後継モデルとして企画されたP140は、残念ながらついに量産されることはなかったものの、そのエンジンは1995年に発表されたコンセプトカー「カラ」に引き継がれ、さらなる改良が施されてガヤルドに搭載。

そしてウラカンが、ガヤルドのフルモデルチェンジ版であることは皆さんもご承知のとおり。つまり、V10エンジンは、30年以上も前からランボルギーニが手がけ続けてきた伝統あるパワーユニットなのである。

ところで、なぜランボルギーニは現在まで脈々とV10エンジンを作り続けるのだろうか?

ランボルギーニは、V12エンジンとともに産声を上げたスーパースポーツカーメーカーである。そして創業してから現在に至るまで、そのフラッグシップモデルには必ずV12エンジンが搭載されてきた。一方で創業者のフェルッチオ・ランボルギーニは、経営基盤の強化を図るためには、フラッグシップに加えて幅広く受け入れてもらえるモデルも必要だと常々考えていた。彼のそうした思惑から誕生したのが、1972年デビューのウラッコだった。

新開発のV8エンジンをミッドマウントしたウラッコ自体は、期待されたほど商業的な成功を収めることはなかったものの、「ベイビーランボ」と名付けられた系譜はその後、シルエットやジャルパに受け継がれていく。

では、ジャルパまでV8だったベイビーランボのパワーユニットを、なぜP140、ひいてはガヤルドではV10としたのか?

これはあくまでも推測だが、1980年代後半から年代にかけては、テクノロジーの進化もあってさまざまなスーパースポーツカーが誕生し始めた時期だった。そうした中で、たとえばホンダNSXやマクラーレンF1が誕生し、ポルシェは959をリリース。つまり、ランボルギーニにとっては新たな強敵が続々と誕生したのが、この時代だったのである。

そうした新興勢力に打ち勝つためには「これまでにない『なにか』を生み出さなければいけない」と、ランボルギーニは考えたのではないのだろうか。

ここでランボルギーニが選択したのがV10エンジンだった。V10であれば、V8を上回るパフォーマンスを発揮できる。そしてマルチシリンダー化による高回転化も期待できる。しかも、V12エンジンを積むフラッグシップモデルの立場を脅かす心配もない。つまり、現代のベイビーランボに理想的なパワーユニットがV10だったのである。

画像: 写真はクーペモデル。スパイダーは遮熱板に覆われてその心臓部を覗くことはできない。

写真はクーペモデル。スパイダーは遮熱板に覆われてその心臓部を覗くことはできない。

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