ユニークネスを象徴する5気筒のハイパフォーマンス
現在、世界的に自動車市場の主力アイテムといえば、何はさておきSUVのカテゴリーだ。各メーカーともユーザーニーズを掘り起こしながら、さまざまなアプローチで提案を続けている。地上高やキャビンの天地にゆとりがあることから、BEV化の親和性も高い。今後はスタンダードモデルの代替として普及する可能性もある。
そうしたSUVマーケットで、アウディは多層的なラインナップを展開してきた。ひとつはQ3、Q5、Q7などのハッチバック系モデルだ。ちなみに、A4やA6それぞれのオールロードのようなステーションワゴン系モデルも、その源流として加えてもいいのではないかと思う。
もうひとつがQ3、Q5に設定されるアウディが命名するところのスポーツバック、言ってみればクーペ的コンセプトのファストバック系だ。ラインナップでもっとも小さいQ2や、もっとも大きいQ8もスポーツバックの識別符はなかれど、形状的にはこちらの側に属するのではないだろうか。
これらのSUVモデルのうちでアウディのテクノロジー&スポーツイメージを牽引する「RS」の称号を戴いたスペシャリティモデルといえばRS Q8、そしてこのRS Q3のシリーズになる。
とりわけRS Q3シリーズの側は、重心高を補える軽量コンパクトな車格がスポーティネスに好作用するだけでなく、技術的な独自性を備えていることもあり、初代でも一定の支持を得てきた。ベースモデルの完全刷新に伴って2020年冬に日本投入された2代目では、ハッチバックボディに加えてファストバックボディ、つまりこのRS Q3スポーツバックが新たに追加されている。
このモデルのユニークネスを象徴するのは、鼻先に横置きで搭載されるエンジンだ。EA855evoというシリーズ名を持つDNW型は2.5L直列5気筒ターボエンジンで、前型となるEA855に対してはクランクケースのアルミ化やオイルパンのマグネシウム化といった材料置換、そしてクランクシャフトやコンロッドなどムービングパーツの変更もあって26kg軽量化されている。
アウディと5気筒の歴史は長く、1976年にデビューしたアウディ100の商品性向上を図るべく搭載されたのがその始まりだ。技術的非常識を現実化する開発に深く携わったのは、かのフェルディナント・ピエヒ氏だ。
氏はその後、5気筒エンジンと四輪駆動=クワトロとの組み合わせとなるグループ4/グループBのマシンでWRCを席巻、アウディのブランドイメージ向上にも大きな貢献を果たし、その後のフォルクスワーゲングループ総帥への道筋に足掛かりをつけた。
かように5気筒への想い入れが深いピエヒ氏も亡きいま、その独特のビート感やサウンドに触れる機会は限られたものになりつつあるのかもしれない。しかもそれを実用的なサイズやパッケージで味わえるRS Q3シリーズは、マニア心をくすぐる選択肢でもある。
日常性という点で言えば、代を追うごとに外観的な主張が激しくなるRSシリーズにあって、RS Q3シリーズは一見ノーマル然としたたたずまいのように思える。もちろん、見る人が見ればタイヤ&ブレーキやエキゾーストエンドで別物であることは一瞥できるわけだが、この控え目さを魅力と感じる向きは、少なからず存在するのではないだろうか。
それでもパフォーマンスに妥協はない。400psの最高出力、480Nmの最大トルクなどは同じエンジンを搭載するオンロードスポーツのTT RSとピタリ同じ。車重はさすがに200kg以上も重くなるため、同等とはいかずとも7速DCTを介しての0→100km/h加速は4.5秒、最高速は250km/hでリミッターが入るが、仮にそれがなければ280km/hまで伸びる。重量配分改善のため、後軸側に多板クラッチ機構を配したクワトロシステムは、最大で100%の駆動力を後輪側に配分するなど、RS専用のチューニングが施された。