e-トロンシリーズの最新作としてアウディが導入したピュアEVスポーツカーには、アウディらしいパフォーマンスがあるのだろうか。その真実を高速道路、一般道路、ワインディングロードで、西川 淳氏がチェックした。(Motor Magazine2022年1月号より)

新たなる「フラッグシップ」への期待値は高い

画像: 新しいものも包み込む懐の深さが感じられる古都京都。RS e-トロン GTがとても映えている。

新しいものも包み込む懐の深さが感じられる古都京都。RS e-トロン GTがとても映えている。

いちクルマ好きの立場で言わせていただくと、とても幸せな時代に生きていると感謝している。馬車にエンジンを積んだような戦前車から、ほとんど自動で高速道路を走ってくれる最新ラグジュアリーカー、数十馬力のシティコミューターに1000馬力のハイパーカーなど、自動車130年の歴史のほとんどすべてを、今ならまだ公道上で楽しむことができるからだ。

産業経済通商戦略やエネルギー安保、環境イシューなどが複雑に絡み合った地域および国家間の「思惑」に翻弄されることをいったん避けてみたならば、バラエティ豊かな自動車から何でも選択できる時代の真っ只中に我々はあるのであって、クルマに興味のある読者諸兄にはそれを享受しない手はないように思う。しかも進歩は著しく、種類はいっそう豊富になるばかり。未来の心配はさておき、個人レベルでは現在の状況を心から楽しんだ方がいい。

というわけで、アウディがブランドの新フラッグシップとして強力にプッシュするe-トロンGTにはデビュー前から興味津々だった。実は2019年の3月に筆者はアウディ本社へ赴きデビュー前のデザインプロトタイプを拝見している。他のe-トロンモデルも並ぶ中でGTだけは異彩を放っていた。シンプルにカッコいい。そう思ったものだった。

ついに日本デビューを果たしたe-トロンGT。個人的にBEVはいまだ長距離ドライブ向きではないと考えるが、導入された2グレードのe-トロンGTを駆り、東京から自宅のある京都までのドライブを楽しんでみることにした。

イタリアンベルリネッタも真っ青のデザインを持つ

画像: e-トロンGT クワトロ。加速フィールはまさしく「異次元感覚」である。

e-トロンGT クワトロ。加速フィールはまさしく「異次元感覚」である。

まずはスタンダードのeトロンGT クワトロだ。まず確かめたかったことが、基本メカニズムを共有するポルシェ タイカンとどのように違うのか、ということだった。

見た目の印象ではe-トロンGTの方が「よくまとまっている」ように思う。タイカンがパナメーラやSUVたちと同様、独特なデザインのスポーツカーであるポルシェ(911)らしさを何とか演出しなければならず、その縛りにどこか辻褄を合わせている感じが拭えないのに対して、アウディはもとより4ドアサルーンが基本だ。

ましてや昨今のスポーツバック系デザインのインパクトが印象に強く残っているとなれば、まとまって見えて当たり前だろう。プロトタイプに比べてディテールデザインが常識的になったとはいえ、フェンダーラインの美しさなどはイタリアンベルリネッタも真っ青である。

e-トロンGTのドライブフィールは、4WDのタイカンとはまるで違っていた。どっしりと路面に張り付いて高速クルージングする感覚は、電子制御シャシの優秀なA8を彷彿とさせる。否、さらに全高が低くワイドな車体ゆえ重厚感はA8どころではなく半端ない。

BEVゆえの低重心というわけだが、実際の車重ほど重く感じさせないのはシャシとその制御が上手く働いているからに他ならない。ステアリングフィールにも落ち着きがあり、街中での乗り心地も良く、スポーツカーのようだったタイカンのキャラクターとは一線を画している。

加速フィールはさすがにBEVだ。踏み込みと同時にトルクの波に襲われる。内燃機関乗りにはいつまで経っても「異次元感覚」だ。速いという感覚は当然のことながら、加速自慢のテスラモデルSと比べると完全にシャシが優っていて安心感がある。制動も同様で、BEVといえども「走る・曲がる・止まる」の基本の総合性能で判断しなければならないということは、瞭然というものだろう。

不満がないわけじゃない。試乗したe-トロン GTのルーフは全面ガラスで、これが少々重い。せっかく低重心な走りを続けていても時にスポイルする場面があった。高速道路から降りる時のカーブやワインディング路などで、頭上に不意に重量を感じてしまうのだ。

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