エンジンの重量増を抑え絶妙なバランスを実現
2007年にデビューしたR8 4.2FSI クワトロはアウディブランドの頂点となるスポーツモデルだが、2009年に登場したR8 5.2FSI クワトロは、それとは別次元の究極のスポーツカーであった。
4.2L V8エンジン搭載のR8は、ボディやサスペンションにまだ余裕があった。スポーツモデルでありながら神経質なところはなく、アウディA4と同じように動かすことができるほどのゆとりがあった。簡単に言ってしまえば、これは足がエンジンに勝っていたからだろう。それでも競合車としてポルシェ911カレラ4やメルセデス・ベンツSL550、アストンマーティンV8ヴァンテージ、ジャガーXKRといった高性能車たちを見据えていた。
そして、新たに5.2L V10エンジンを搭載したR8 5.2FSI クワトロのパフォーマンスはロードゴーイングカーとしての頂点を極めたと言っていいだろう。0→100km/h加速は3.9秒、トップスピードはなんと316km/hである。アウディの想定する競合車はポルシェ911ターボに格上げされ、そのほかのライバルとしてフェラーリF430、メルセデス・ベンツSL600など、究極のパフォーマンスを持つモデル名が並ぶ。
ちなみにV10エンジンのパフォーマンスは、525ps/8000rpm、530Nm /6500rpm。V8モデル比では、最高出力が105ps、最大トルクは100Nmアップしている。
V10化でも重量増は最小。動的バランスは変わらず卓越している
エクステリアもR8 4.2FSI とは異なり、デザインに迫力が増した。サイドのエアインテークカバーの形状は、より多くの空気を取り込めるよう外側に膨らみ、エッジが利いた形状になった。さらに、アルミホイールも究極モデルに相応しく個性ある10スポークYデザインに変更された。
R8のクワトロシステムは、V8搭載車もV10搭載車も同じだ。イニシャルで15:85という前後トルク配分だが、リアが滑り始めるとビスカスセンターデフが効いて最大30:70まで配分が変わる。クワトロだからといってセンターデフがロックすれば前後のトルク配分が同じになるわけではない。最後までリア駆動を優先しているのだ。
トランスミッションは、デュアルクラッチ式のSトロニックではなく、V8搭載車と同じシングルクラッチ式のシーケンシャル6速の2ペダルであるRトロニックだ。パワーの伝達効率の良さや軽量化などRトロニックの持つメリットを選んだところも、究極のスポーツカーに徹している。
V型10気筒エンジンを搭載したR8の前後の重量配分は44:56を実現した。ミッドシップスポーツカーとしていいバランスを確保している。これには258kgというエンジン重量も貢献している。V8から2気筒増えてもその重量増は約31kgに抑えられているという。
また、パフォーマンスが向上したことによって、ブレーキ性能も引き上げなくてはならない。試乗車にはオプションのセラミックブレーキ装着車を選んだ。このセラミックブレーキは、高速からの急制動能力向上、スチールディスクの4倍の耐摩耗性、同じく50%の重量軽減を実現している。