信頼できる強靭な骨格。誠実なクルマづくりの真価
今回のテーマは最新型のゴルフTDIだが、その前に私がゴルフに寄せる思いについて記したい。いまから47年前の1975年、初代ゴルフは時代の最先端をいくスタイリッシュなコンパクトカーとして日本デビューを果たした。少なくとも当時の日本において、ゴルフは、それを所有しているだけで自慢できるクルマだった。そして優れた実用性に加えて、スポーティな要素も兼ね備えているところも、忘れることのできないゴルフの魅力だった。
つまり、ゴルフはデビュー当時から多種多様な側面を備えていたわけだが、そうした数多くの価値を根底で支えていたのは、ファミリーカーとしての「誠実なクルマ作り」であったと私は捉えている。さらに言えば「誠実なクルマ作り」こそは、フォルクスワーゲンというブランドを支えるもっとも重要な価値、と言ってもいいと思う。
そして、この「誠実なクルマ作り」の頂点に位置づけられるモデルが、先代のゴルフ7だった。静粛性が高く、乗り心地は快適で、室内は広々としている。運転のしやすさや経済性にも文句の付けどころがない。そして何よりも安全極まりない操縦性を備えていて、品質が高く、どんな過酷な状況でも「アゴを出さない」骨太さを備えていた。まさにゴルフを代表するような存在だと言えた。
そして、その7世代目に用意されたゴルフTDIもまた、いかにもゴルフらしいクルマだった。優れた実用性や質感はそのままに、TDIらしい力強さと経済性の高さを備えていた。ディーゼルエンジンが発するノイズやバイブレーションは、同時代のモデルと比較して決してトップクラスに位置していたわけではないけれど、ゴルフという全体的な価値の中で捉えれば、目をつぶれない問題ではなかった。言い換えれば、ディーゼルエンジンを積むコンパクトカーを探している人であれば、誰にでも安心して勧められたのがゴルフ7のTDIだったのである。
ただし、新型ゴルフ8のTDIについては、実際に乗ってみるまでちょっとした心配を抱いていた。先に登場したガソリンエンジン仕様のゴルフ8に試乗した時に感じたのだが、足まわりに大きな衝撃が加わった際、何とはなしに心許ない感触が伴ったのである。
別に、これによって進路が乱されるわけでもなければ、強い不安を抱いたわけでもない。衝撃を受けた直後に、かすかな振動が残ったように感じられただけのことで実用性や安全性には何の影響もない。でも、このことで私はゴルフ8に大いに落胆することになる。
なぜなら、こんなことで安っぽさを露呈しない「誠実なクルマづくり」こそ、ゴルフの、ひいてはフォルクスワーゲンの最大の価値だと捉えていたからだ。この「足まわりの微振動」は、ガソリンエンジンを積むゴルフ8に共通して感じられる傾向だったので、最新のゴルフTDIも同様の弱点を抱えているのではないかと心配でならなかった。しかし幸いにも、これは杞憂に終わる。
8世代目ゴルフのTDIモデルでは、サスペンションに大入力が加わっても微振動が残ることはなかった。おかげで、7世代目までのゴルフがそうだったように、その強靱な骨格に全幅の信頼を置くことができたのだ。